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第二放送【雑談・コピペ】

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2026/04/08 04:49
『富士日記』から学んだ「日常の贅沢」|日々、本から学ぶ【第28回】印南敦史

もちろん、刺激に満ちた波瀾万丈のストーリーにも、読み手を引きつけてやまない説得力があるものです。とはいえ当然のことながら、読書の楽しみはそれだけではありません。たとえば小説であれエッセイであれ、個人的に好きなのは「なにも起こらない日常」をつづった作品。結局のところ、あたりまえのことをあたりまえにしているだけの「日常」には、あたりまえだからこそ心を和ませてくれる“なにか”があるように思えるのです。

それに自分の日常だけではなく、そもそも他人の日常って気になっちゃうものじゃないですか。「他人の日常をのぞき込む」なんていう表現を用いてしまうと一気に品がなくなりますが、自分のそれとはきっと違うのだろうという期待感があるからか、「どんな日常なんだろう」と、やはり気になってしまうんですよね。

そういう意味でとても楽しく、だから何度も読みなおしてしまうのが『富士日記』。小説家の武たけ田だ泰たい淳じゅんの奥方が、家族で過ごした富士山麓の山小屋での日常を綴った日記です。

まず、「これは山の日記です」という、簡潔にして心をぐっとつかむ一行目からしてすでに魅力的。しかもこの人、自ら「食糧不足の貧村に疎開して暮したので、平然とみみずもつかむ」と自ら認めているとおり、非常にカラッとした性格なのです。“東京生まれ東京育ちの夫” とは対照的なので、読み手としてはその差がめちゃめちゃ楽しい。

たとえば印象的なのは、車で富士山へ向かう道中の出来事を記した昭和41年3月の記述です。

門からみえた霧氷は二合目三合目位のところで、そこは草まで霧氷がかかっていた。車には、ほとんどすれちがわない。四合目の駐車場に入ると晴れていて、本栖から白糸の滝あたりまでの麓の村は、パノラマのようによく見えた。真白なアルプスも見えた。コロナが一台とまっていて、男の子が二人、石を下の道に投げている。両親らしき大人は車の中にいる。危ないので注意する。男の子二人は、少し間をおいて、帰りがけの私に「クソババア」という。「クソは誰でもすらあ」と、振向いて私言う。主人に叱られる。

私はこの部分が大好きなんですよ。

無駄がなくて簡潔な前半の情景描写がいいなあと思っていたら、後半では生意気な子どもにガツンと直球を打ち返すあたりが痛快で。

ここがまさにそうであるように、“事件” のようなものが起こるとすれば、せいぜいこの程度。だからスラスラと読めてしまうのですが、その “なにも起こらない日常感” がたまらないのです。

なお、こまめに書かれている朝昼夜の献立のなかによく出てくる「とりスープ」も非常に気になるところ。素材の持ち味を活かしたシンプルなスープだと勝手に決めつけているのですが、山に囲まれた環境で飲んだら、きっとおいしいだろうなあと想像がふくらんでしまうんですよね。


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