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この第一囘の試演に用ゐたイブセンの「ボルクマン」は、わたくしにとつて忘れ難い追憶がある。それと云ふのも、この「ボルクマン」はイブセンの作中でわたくしの讀んだ最初のものであつたからである。イブセンの戯曲、その曲に含まれた人生觀や、脚本としての技巧などについては、既にいろいろの評論もあつたことであるし、わたくしとても略知つてはゐたが、特に研究して見ようと云ふ氣も起さずに過して來たのである。然るに島崎藤村さんが信州の小諸から、これを是非讀んで見ろと、わざわざ小包で送つてくれたのが、この「ボルクマン」である。わたくしは藤村さんの好意を謝しつゝ深い思ひを以てこの脚本を讀み了つた。これがイブセンを讀んだ最初である。その脚本が今我邦の舞臺に始めてかけられるといふのである。わたくしが少なからぬ希望と喜びと無上の興味とを以て、この試演を觀たことに不思議はない。
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