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彼は、ともかくも晴れやかな浮揚的な心持で、歩き馴れた鋪道の上を歩いていた。彼の心には、今のところなんの不安もなければ憂慮も存在していなかった。まったく安易な、のうのうとした心安さであった。他人が見たら、彼は少し肩をそびやかしていたかも知れぬほどの得意ささえ、彼の心のうちに混じっていた。彼が、銀座で有名な△△時計店の前まで来た時であった。彼は、ふと自分の方へ動いてくる群衆の流れのうちに、ある一つの顔を見出した。見覚えのある顔だと、彼は思った。それはほんの一瞬時だった。青木だ! と気がつくと、彼の脚はぴったりと鋪道の上に釘付けにされたように止まってしまった。が、釘付けにされたものは、彼の脚ばかりではなかった。彼のすべての感情が、その瞬間動作を止めて心のうちで化石してしまったように思えた。彼のその時まで、のんびりとしていた心持が、膠のように、急に硬着してしまった。彼の心全体が、その扉をことごとく閉じて、武装してしまったという方が、いちばんこの時の心持を、いい現しているかも知れなかった。雄吉は、身体にも心にも、すっかり戦闘準備を整えて、青木の近よるのを待った。
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