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市九郎は、この紛擾が無事に解決が付くと、それによって徒費した時間がいかにも惜しまれるように、にじりながら洞窟の中へ入っていった。 実之助は、大切の場合に思わぬ邪魔が入って、目的が達し得なかったことを憤った。彼はいかんともしがたい鬱憤を抑えながら、石工の一人に案内せられて、木小屋のうちへ入った。自分一人になって考えると、敵を目前に置きながら、討ち得なかった自分の腑甲斐なさを、無念と思わずにはいられなかった。彼の心はいつの間にか苛だたしい憤りでいっぱいになっていた。彼は、もう刳貫の竣成を待つといったような、敵に対する緩かな心をまったく失ってしまった。彼は今宵にも洞窟の中へ忍び入って、市九郎を討って立ち退こうという決心の臍を固めた。が、実之助が市九郎の張り番をしているように、石工たちは実之助を見張っていた。
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