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「お父さん、僕エビフライ喰べようかな」 寿司を平らげてしまった長男は、自分で読んでは、斯う並んでいる彼に云った。 「よし/\、……エビフライ二――」 彼は給仕女の方に向いて、斯う機械的に叫んだ。 「お父さん、僕エダマメを喰べようかな」 しばらくすると、長男はまた云った。 「よし/\、エダマメ二――それからお銚子……」 彼はやはり同じ調子で叫んだ。 やがて食い足った子供等は外へ出て、鬼ごっこをし始めた。長女は時々扉のガラスに顔をつけて父の様子を視に来た。そして彼の飲んでるのを見て安心して、また笑いながら兄と遊んでいた。 厭らしく化粧した踊り子がカチ/\と拍子木を鼓いて、その後から十六七位の女がガチャ/\三味線を鳴らし唄をうたいながら入って来た。一人の酔払いが金を遣った。手を振り腰を振りして、尖がった狐のような顔を白く塗り立てたその踊り子は、時々変な斜視のような眼附きを見せて、扉と飲台との狭い間で踊った。 幾本目かの銚子を空にして、尚頻りに盃を動かしていた彼は、時々無感興な眼附きを、踊り子の方へと向けていたが、「そうだ! 俺には全く、悉くが無感興、無感激の状態なんだな……」斯う自分に呟いた。
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