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馬車はまもなく、パン屋の店先につけられました。馬車から二人が出て来た時には、不思議にもまた、ちょうどいつかの時のように、おかみさんが出来たてのパンを窓にさし入れていました。 セエラが店に入って行きますと、おかみさんは振り返ってセエラの方を見ました。セエラを見ると、甘パンはうっちゃらかして、帳場の中に坐りました。おかみさんはしばらくの間、穴のあくほどセエラの顔を見つめていましたが、人のいい顔はじき、はればれとして来ました。 「確かに、お嬢様にはお目にかかったことがございますわ。でも――」 「ええ、お目にかかりましたわ。あの時あなたは、私に甘パンを六つも下さいましたわね。それから――」 「それから、あなたは六つのうち五つまで、あの乞食娘にやっておしまいになりましたのね。私はそのことが忘れられませんでしたの。初めは、何だかわけがわかりませんでしたけど。」
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