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名前はアンヌと申します。アンヌとばかりで、苗字も何もないのでございますよ。」 セエラとアンヌとは、ちょっとの間、ただ黙って、じっとお互の顔を見合っていました。やがて、セエラはマッフの中から手を出して、帳場の向うのアンヌの方にさし出しました。アンヌはその手を握りました。二人はまたお互に眼を見合せました。 「私、うれしくてよ。」と、セエラはいいました。「私、今しがた、いいことを考えていたの。きっとおかみさんは、あなたにパンを施させて下さるでしょう。あなたもきっと、その役をよろこんでして下さると思うわ。あなただって、ひもじい味はよく知ってらっしゃるのですものね。」 「はい、お嬢さん。」と、少女は答えました。 アンヌは、それぎり何もいわず、つっ立っていたばかりでしたが、セエラには、アンヌの気持がよく解るような気がしました。アンヌは、いつまでもそこに立って、セエラが印度紳士と一緒に店を出、馬車に乗って去って行くのを、じっと見送っていました。
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