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(愚図愚図いわれるのよ)という美和子の言葉に、夫人はギョッとして、 「愚図愚図いうとは何ですか。生意気だわ貴女は。何だって、私をそんなに侮辱するのですか。」と、今度は自分の方が、被害者でもあるかのような夫人の口調である。 美和子は、相変らず、物に動じない円な瞳をジッと、見はって、 「だって、そうなんですもの。前川さんは、穏便主義でお姉さんは、志操堅固なんですもの。愚図愚図いわれることなんかちっともないわ。お姉さんは、処女ですわ。わたし、処女であることを信じているわ。奥さんに、苛められることなんかちっともないと思うわ。」姉に対する美和子の信念は、熱を持っていて、さすがに有力な反撃であった。だが、夫人も負けてはいず、 「へえ――。不思議なことを聞くものね。それなら、なおのこと、こんなベッドのある部屋で、前川と会うことなんか、慎むべきですわ。」 「そんなことは、お姉さんに、おっしゃる前に、前川さんに、おっしゃるべきだわ。」 「貴女の指図は受けなくっても、むろん前川を責めますよ。しかしそうするためにも、このいかがわしい場所を、確かめておく必要があるじゃありませんか。」 さすがの夫人も、才気煥発、恐ろしい者知らずの美和子には、ややてこずっている気味である。
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