コピー
美和子は、また奮然として、 「お姉さんだって恐れ入っているもんですか。お姉さんは、あんまり良心がありすぎるから、たった一月お世話になったことを考えて、遠慮しているだけよ。こんなに慎みぶかいお姉さまを危険視するなんて、大間違いだわ。お姉さんを、警戒する前に、奥さまは、手近な前川さんの心臓を、しっかりお握りになっているといいんだわ。」 これは、美和子の揮う論理の中でも、相当夫人にとっては、痛いものであるだけに、夫人はますます苛々して、表情らしい表情を無くして了い、 「下らない理窟なんか聞きたくないわ。ともかく今夜かぎり、貴女方姉妹は、この店に出入を止して頂きたいわ。ねえ、新子さん、それに異議はないでしょう、貴女は先刻承諾したはずですもの。」と、敢然として高圧的な態度に出た。 「どんな理由で、止さなければならないんですか。」と、美和子は落着き払って訊いた。 「どんな理由? 私が厭なんです。前川がこんな酒場なぞを出すことに、反対するのです。この店が無くなる以上、貴女がここに止まるわけはないじゃありませんか。」夫人は、ようよう冷然たる態度を取り戻して来た。
TOPに戻る
-
iboard BASIC
-