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もし、またそれを続けるとしたならば、今以上に、太陽の当らぬ日蔭の地を選ばねばならないし、またどこに隠れていようとも、ゲー・ペー・ウーのように鋭い夫人の眼を怖れて、常に恟々としていることは、新子の堪え得るところではなかった。 今こそ、前川の周囲から、身を引いて、明るいところへ、新しい生活を築き直すべき機会であると思った。 新子が、ふかくうなだれて物を思っていると、女給のよし子が、不安な表情で上って来て、小声で、 「先刻、前川さんがお見えになりましたので、美和子さんのおっしゃったとおり、資生堂で待っていて頂くように、申上げておきました。」と、いった。 「あら、そう、どのくらい前。」 「たった今でございます。」 「お姉さま行く?」と、美和子は姉を見た。一歩、店を出ると、すぐ前川夫人につかまりそうな気がして、新子は会いに行く、勇気が出なかった。 「じゃ、私、行って来るわ。とにかく、事件を報告してくるわ。あの人にも少しいってやるの。」と、新子が、止める隙もなく、美和子は一散に店を飛び出して行った。
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