コピー
「グレープ・ジュース、氷沢山入れてね。」と、ボーイに命じて、後は前川の張りついたような顔に、愛らしく笑いかけて、 「貴君の奥さんと、やり合ったんで、喉が乾いちゃったの。……でも、不愉快だわ。」 「貴女が、やり合ったんですか。」前川は、気の毒なほど、蒼くなっていた。 「そうだわ。だって、新子姉さんは、何にも云わないんだもの。だから、マダム、俄然威張っちゃって、お姉さんを泣かしてしまったんだから……」 「お店で、ですか。」 「お店で、始まりそうだったから、二階へ上げちゃったの……」 「二階でね。」前川は、秘密の核心を衝かれたように、憂鬱な顔になって、 「しかし、こんなに早くどうしてあの店が分ったんでしょう。」 「圭子姉さん、ご存じ?」 「知っています。」 「あれが、マダムに籠絡されているんだから、世話はないの。私が圭子姉さんに頼まれて、だらしなく案内してしまったの。」 「圭子姉さんか、ウッカリしていた……」 物事の径路がハッキリして来ると、今までは半信半疑であった事件が、マザマザと考えられて来、妻の露骨な仕打ちが、わが事のように羞らわれて来た。 「奥さんも、随分思い切ったことなさるわねえ。たとい、お姉さんを疑っていらしっても、いきなりここへ来て、直接行動を取るなんて、ひどいわねえ。」 「ひどい――とんでもないことをする。」前川は、憮然としている。
TOPに戻る
-
iboard BASIC
-