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車掌に注意されて、彼は福島で下車した。朝の五時であった。それから晩の六時まで待たねばならないのだ。 耕吉は昨夜の十一時上野発の列車へ乗りこんだのだ、が、奥羽線廻りはその前の九時発のだったのである。あわてて、酔払って、二三の友人から追いたてられるようにして送られてきた彼には、それを訊ねている余裕もなかったのだ。で結局、今朝の九時に上野を発ってくる奥羽線廻りの青森行を待合せて、退屈なばかな時間を過さねばならぬことになったのだ。 が、「もとより心せかれるような旅行でもあるまい……」彼はこう自分を慰めて、昨夜送ってきた友だちの一人が、意味を含めて彼に贈ってくれたところのトルストイの「光の中を歩め」を読んでいた。 ストーヴのまわりには朝からいろいろな客が入替った。が耕吉のほかにもう一人十二三とも思われる小僧ばかりは、幾回の列車の発着にも無頓着な風で、ストーヴの傍の椅子を離れずにいた。小僧はだぶだぶの白足袋に藁草履をはいて、膝きりのぼろぼろな筒袖を着て、浅黄の風呂敷包を肩にかけていた。 「こらこら手前まだいやがるんか。ここは手前なぞには用のないところなんだぜ。出て行け!」
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