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幾島暁太郎は、あの時以来、有耶無耶にこの山荘へはひり込み、見舞とも手伝ともつかぬ風で階下の一室に寝起きし、混雑にまぎれて素子ともろくに口を利いてゐないのである。 「第一に、伯爵はどうしてあんな真似をしたんです? あなたからはまだ、そのことについてはつきり説明を聴いてゐませんよ、僕は……」 かういふ問に対して、素子は平然と、 「さういふことを今詮議なさりたいの、あなたは? 警察でも、ちやんとした理由はつかめなかつたんだから、それでいゝぢやないの。ね、それでいゝと思ふのよ。だつて、事実をどう追つてみたつて、普通の心理ぢやないんですもの。あの方独得の心理について、あたくし流の解釈をしてみろつておつしやれば、それや、できないことはないけど……さあ、あなたがそれで納得なさるかどうか、……」 「いゝえ、僕はね、実をいふと、伯爵の自殺そのものには大して興味はないんです。それがあなたとどう関係があるかつていふことだけ、あなたの口から直接聴いておきたいんです。物好きすぎますか?」 「物好きなのはあなただけぢやないから……」 と、彼女は低く独言のやうに云つて、微笑した。 「さうですとも……僕は新聞がどう書くか、こいつは見ものだと思ひますね。しかし、田沢さんが大分その方面へは運動されたんでせう?」 「さあ、どうですか。書きたいやうに書けばいゝんですわ。こんな問題で騒ぐ時節ぢやないんですもの」
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