コピー
「あなたはもつと伯爵の運命を悲しんでいゝんぢやないんですか?」 こゝで、幾島暁太郎は起ち上つて、マントルピースの方へ近づいた。 「おや、変なことをおつしやるわね。ひとの悲しみの程度がどんな風にしておわかりになるんでせう?」 「それやまあ、僕にはいろんなところでわかりますがね、あなたは伯爵を随分苦しませたんでせう、ほんとのところ……?」 幾島は、素子の視線がやゝ慌て気味に左右へ配られるのを見逃さなかつた。 「僕はあなたを責めてるわけぢやないんだ。伯爵には、しかし、さういふ感情の処理といふ点でたしかに、非凡なところもあつたんでせうね。なにか、この事件をめぐつて、さういふものも感じられるんです。あなたのすべては、しかしこれこそ謎ですよ、僕に云はせれば……」
TOPに戻る
-
iboard BASIC
-