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もうすでに、砂浜に投げ出してある可なり大きな魚をのぞき込んでみると、それは、ボラに違いないと思った。そこへ、子供をおぶったおかみさん風の婦人が近づいて来た。私は、その婦人にたずねた。――これはなんですか? その婦人は、言下に――スズキです、と答えた。スズキなら、大したものだ、と考え、私たちは、また歩き出した。すると、長いさおを縦横に振って波頭めがけて糸を投げ込んだ一人の男が、見事に大物をつりあげるのを見た。これはまた、さっきの倍もありそうな大物である。私は、その男の誇らしげな眼に笑いかけながら、おめでとう、という代りに言った。――やあ、スズキですね。その男は、軽く眼をそらして「ボラだよ」と言い放った。 私は、あやふやな知識とは、こういうものであると、訓すように、かたわらのN嬢に言った。
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