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悦子 愛子はなんだか気分がわるいんで、失礼するつて申してますわ。少し風邪気味らしいんですの。 田所 (ぢつと悦子の顔を見つめ)ちよつと顔だけ見せるつてわけに行きませんか。 一寿 今朝、食事の時は起きて来よつたぢやないか。 悦子 起きてはゐるんですよ。でも変な顔してお目にかかるのいやなんでせう。さうさう、岡田さんはどうしていらしつて? 田所 相変らずですよ。今もお話したんですが、奴さん、この夏お嫁さんを貰ひましてね……。 悦子 あら……。 田所 それで可笑しいんです。上陸するたびに、まあ家へ帰るのはいいとして、船へ戻つて来ると、きまつて腹をこはしてるんです。なんでも、いきなり汁粉をこさへさせて、そいつを朝昼晩と食ふらしいんですな。 悦子 まさか……。 田所 船乗りなんて、みんな子供みたいなもんですよ。 悦子 それでゐて、何時かは、麦酒をあんなに滅茶にお飲みになつて……。 田所 あれは初郎君がわるいんだ。先生は人をおだてる名人でしてね、煽動家ですよ。うちの船長がその手に乗つて、たうとう黒ん坊の女と寝たつて話……あ、いけねえ……。 一寿 何とね? 悦子 いやねえ、黒ん坊の女とですつて……。 一寿 ああ、君がかね。 田所 いや、僕の話ぢやないんです。ああ、もうよさう。どうもたまに陸へ上ると、頭の調子が狂つて来やがる。 一寿 ああ、君、なんか特別な話があるんだつたね。こいつがゐちや具合がわるいか。 悦子 あたしはもう引込むわよ。明日の準備もありますし……では、ごゆつくり……。
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