コピー
悦子が奥へはいると、両人はしばらく、黙つて煙草を吸つてゐる。 田所 どうも、少し、切り出しにくいんで……。 一寿 さあ、遠慮なく云ひ給へ。但し、僕の力に及ぶことかどうか……。 田所 それが問題なんですが、ぢや、はつきり云ひます。実は、愛子さんのことで御相談があるんです。 一寿 …………。 田所 僕も、やつと一等運転士の免状も取りましたし、そろそろ……。 一寿 ああ、わかつた。愛子をくれと云はれるのか。そいつは、僕に相談してもなんにもならんよ。僕から取次いでもいいやうなもんだが、あれも自分のことは自分でやると云つとる。なるほど、それだけの頭もできとるやうに思ふから、僕も一切信用して、放任主義を取つとるんだ。そりや、君、世間の親達は、娘の将来にあれこれと喙を容れたがるが、それだけ娘を幸福にできるもんか? 僕はその点、親の権能といふもんを、正しく認識しとるつもりなんだ。娘の方から相談してくれれば、こりやまた別で、当りさはりのない注意ぐらゐしてやれんこともないが、僕んとこの娘たちは、ことにあの愛子といふ奴は、なかなか自信家でね。僕からでも、そんな話を持ち出さうものなら、てんで相手にはせんよ。まあまあ、そこはよろしくやり給へ。
TOPに戻る
-
iboard BASIC
-