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そこで、藤本が、引きとつて、 「だからさ、今日午前中に四人も出入したものがあるんだから、ご自分でないといふことになれば、その四人のうち、誰かゞ、といふことになるんです。その方はもちろん早速、警察で手配をしてくれてゐます。大庭さんは、さつきやつと意識を快復されたんですが、すると、すぐに、あなたに会ひたいと云はれるんです。平生から度々お名前は伺つてゐましたし、無二のご親友といふことでしたから、とりあへずお知らせしたわけで、実にどうも、意外な事件です」 保枝はさういふ説明を聴きながら、常子の様子をぢつと見入つてゐた。まだ口は利けないらしく、こつちの云ふこともはつきり聞えるかどうか疑はしいやうに思はれました。が、彼女はもう一度、顔を近づけた。 「常ちやん……あたしが来てるのよ。わかるんでせう?」 大庭常子は、薄く見開いた眼で、保枝の視線を探してゐます。なにやら、口を動かして、話しかけたい様子はさつきと変りありませんが、かすかに唇から呼吸のもれる気配がします。保枝は、すぐに、耳をその唇の上に重ねました。
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