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ところが、厄介なことは、男の訪問客三人のうち、来た順序ははつきりしてゐますけれども、帰つた順番がどうも不確実で、そのうへ、男二人は前後して帰つたことだけ見とゞけてゐるのですが、一人の男と、女の訪問客とは、いつの間に帰つたか、つい気がつかずにゐたといふわけです。 そして、更にまたこの事件を複雑にしてゐるのは、自殺にしろ、他殺にしろ、その方法と順序を示すなんの形跡も、手がかりもないことでした。つまり、それに用ひた薬品も、それを盛つた容器の類も、まつたくそのへんには見当らず、たゞ、午前中のある時刻に、件の書物が彼女の体内にはいつた事実だけが確かであるに過ぎないのです。 「根本さん、あなたから、ひとつ、最後に来た婦人の名前だけでも言はせてみていたゞけませんか」
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