コピー
私は、今、時計といふものを持つて歩かない。時間を超越するほど結構な生活をしてゐる訳ではないが、時計を持つてゐなくつても、どうやら用事は足りるのである。そのかはりどこへ行つても、時間を知りたい時には、時計を持つてゐさうな人に、「いま何時?」と問ひかける。時間をきめて人を訪ねる時など、その家の近所へ辿りつくと、軒並みに薄暗い店のなかへ、それとなく素早い視線を投げて、柱時計のありかを一瞬間に突き止める修練は、いつの間にか積んだ。かういふ時、便利なやうで不便なのは時計屋の店である。なんとまぎらはしき針また針の方向!
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