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小萩は、寝台の上に腰をおろしたまゝ、彼の顔をみると、いきなり、黙つて、かぶりを振つた。眉にしわを寄せている。会いたくないという意味がすぐに察せられた。 「どうして?」 と、彼は小声でたずねた。 「どうしてつて……わかつてるじやないの。いま、誰にも会いたくないの」 彼は、ちよつとまずいなと思つたけれども、強いて会わせるにも及ばぬと考えなおし、 「あゝ、そんなら、それでいゝよ。なんの用事だか知らないけれど、こゝで長つ話はうるさいだろうから、散歩かたがたホテルまで送つて来るよ。どうせ、今夜はあそこへ泊めるよりしようがないだろうから……」 彼は、戻つて来ると、二人に言つた。 「病人姿で人前に出るのはいやだというから、あしからず……。さて、こゝはごらんの通り客を通す部屋もないんでね。ぶらぶら歩きながら話そう。君たちは今夜はどうする予定だい? ホテルへ泊るなら案内するよ」 そう言つて、彼は二人を外へ誘いだした。 「おれはただ、君の養蜂事業というやつを見学かたがた、山の空気を吸いに来たんだ。しかし、あゝいう女性がそばにいることは想像もしなかつた。羨ましい生活だな」 と、南条己末男は、ほんとに羨ましそうに言つた
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