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「あら、いやだ。そんなことこゝじや言わない筈だつたわ。兄さん、このひとつたら、いきなりあたしに結婚してくれつていうんだけど、そんなこと、変ねえ。お友達として、お互にまず及第かどうか試してみるのが肝腎だわ。それなら、おつき合いしましようつて約束なのよ。それでいゝわねえ」 真喜は、それを、はにかみひとつみせず、男二人の前で、ずけずけと言うのである。京野等志は、もうそんなことには驚かなくなつている。 「僕はそういうことには、いつさい干渉しないよ。第一、そんな問題は、第三者に、なにひとつ、わかる筋合のもんじやないさ。南条君、蜜蜂が見たければ、あすの朝、箱をあける時間に来ないか。六時キッカリにあける。じや、失敬だけど、僕は病人のそばへ帰る。ゆつくりやすみたまえ」 二人をホテルの玄関口まで送つて、彼は、大股にもと来た道を引つ返した。 もう日がかげつて、あたりの空気が、肌にひえびえとするくらいであつた。 と、やがて、この土地特有の霧が、山裾からもくもくと這上つて来る。 「いけねえ」 と、彼は口の中で呟いた。
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