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霧の時は、早く窓をしめないと、病人が息苦しいというのである。その窓が、また、女の力でどうにもならぬほど、締めにくいと来ている。彼は、飛んで帰つた。 小萩は、まだ、ヴェランダの寝椅子の上にからだを横たえていた。 「ちよつと、ちよつと……早く……さつきから蜂がさわいでると思つたら、なんだか熊ん蜂がいくつも襲つて来てるらしいわ」 「え?」 と、彼は、それこそ、顔色を変えて、蜂箱の方へ去つて行つた。かねて、そういう場合に使う大きな蠅たゝきが樹の枝にかけてあるのをはずし、それを右手で振りあげながら、空中をにらみつけた。 なるほど、蜜蜂の数倍もあろうという獰猛なすがたをした熊ん蜂が、箱の入口を目がけて急降下すると、入口を守備している蜜蜂が、たちまち、その一撃で斃される。続いて、また一つ、その熊ん蜂目がけて飛びかゝつて行く。それがまた、あえなく、地上に墜落して来る。が、更に、ほかの一つが、横あいから敵に喰いさがる。それも無駄である。一対一の戦闘が、こうして、きりなく続く。そして、勇敢な蜜蜂は、力敵せず、一つ一つ、その犠牲となつて屍を地上にさらすのである。その間に、手さえ届けば、人間が蜜蜂の助太刀をするのであるが、今という瞬間を見定めて、蠅たゝきの一撃をねらい誤またずこの悪鬼のような侵入者の上に加えることができれば、それでいゝのである。 京野等志は、まだその戦法に熟達はしていないが、闘志満々、義憤に燃えて、蠅たゝきを持つ手が、ぶるぶる、ふるえているのである。しかし、熊ん蜂は、なかなか、近くへ寄つて来ない。
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