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津軽海峡の連絡船はもう三日欠航をつゞけていた。 青森駅からさん橋までの通路は人に埋まり、町の旅館はどこもむろん満員であつた。もう初雪が降つたというこの地方の、十一月とは思えぬ夜風の冷たさに、破れガラスの窓の下でいく日も船を待つ人々の皮膚は血の気を失い、毛布を頭からかぶつてうずくまる旅なれた連中のすがたのみが、世にもぜいたくなものに思われた。 ひとわたり、この人ごみの中をかきわけて、なにかを探すように歩いてみたが、井出康子はいまにも泣きだしそうな息子の顔をのぞきこみながら言つた―― 「元気をだすのよ。男のくせにそんな顔してるとヒデちやんに笑われてよ」 彼女はあてもなく、こゝへ来たわけではない。しかし、そうかといつて、たしかなあてがあるわけでもなかつた。もうこれ以上じつとしていられないという、切羽つまつた気持で、どこか遠い、それこそまるでちがつた世界へ飛びこんで行こうという気になり、子供のことを考えると、自分ひとりの身の始末だけではすまず、たま/\中園三郎のことが頭に浮び、いつそのこと、彼のところへ黙つて押しかけて行つてみようと、つい思いたつてしまつたのである。
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