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それは、じつさい、ふらふらとそういう気になつたのであつて、彼女自身としては、中園という男のどこかに心ひかれてそうなつたのか、または、彼の現在の生活――話に聞いただけではあるが、いわゆる無人島に流れついたと思えば間違いないというような原始的な風物と、そのなかの荒々しい生活――が、彼女の好奇心をそゝつたのか、そのへんのところはまだはつきりしないのであるが、ともかく、小さな息子の手を引いて、着のみ着のまゝといつてもよい女一人が、いきなりぶつかつて行く場所としては、なにかそこには、さほど無謀とも考えられない条件がそなわつていたのである。息子のモトムとあんなに別れを惜しんだ少女は、中園の娘、ヒデ子ではなかつたか。 とはいうものゝ、彼女は、こゝまで来て、あらわにそれと言いたくない自分のひそかな期待、本心とみられることはまだ/\承服できないような中園に対する一種の興味を、もう否定はしなかつた。 地獄の旅のような二日二晩の汽車の中で、彼女は、うつら/\考えた――市ノ瀬牧人の前からはどうしても姿をかくさなければならない。永久に……そうだ、永久にだ。自分というものをいまだれかの手にゆだねるとしたら……。彼女の胸はあやしく波立つた。
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