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しかしながら、私の行動を変な目をもってみたものは、必ずしも世間の無理解者のみではありませんでした。いわゆる部落の人々からも、何か為にするのではないかと疑われたことも度々あります。また一方からは部落民のヒイキをしすぎると言われたのと正反対に、いわゆる部落の側の人からは、「喜田は御用学者だ、その筋の回し者だ」などと呼ばれたこともありまして、なるほど世人が疑い深いと批評するのも、まんざら無理のないことだと、感ぜざるをえない場合もないではありませんでした。しかしさらにひるがえってよくこれを考えますと、多年いわゆる同情の押売者や、パンのための改善家に馬鹿にされた人々にとっては、一応そう疑ってみるのもまんざら無理ならぬことであるばかりでなく、平素世間から侮られ、除け者にせられ、罵られるに慣れた人々としては、自然部落外の者の行いについて、神経過敏になるのもやむをえないことなのであります。したがって、よくこれを諒解してくれさえすれば、いわゆる部落の人々はいずれも善人です、親切な人々です、人懐っこい人々です。少くとも私の交際した限りの人々に、そう親しみにくいというほどの者のあることを知らないのであります。世人が往々彼らを見て、疑い深いの、親しみにくいのというのは、畢竟するに、いわゆる「喰わず嫌い」で、「よく知らない」からのことであったのです。されば、もし真によく部落を知ったならば、何人といえども「ああ気の毒なことだ」、「相すまぬことであった」と、同情と反省との念が必ず起るに相違ないのであります。
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