コピー
「いや」と、Kは言った。「休みたくはありません」 できるだけきっぱりとそう言ったのだが、実際は、腰かけることが彼には気持よかったにちがいなかった。まるで船酔いのようだった。難航中の船に乗っているように思われた。水が板壁の上に落ちかかり、廊下の奥からはかぶさる水のような轟々という音が聞え、廊下は横ざまに振れ、両側に待っている訴訟当事者たちは下がったり、上がったりしているように思われるのだった。それだけに、自分を連れてゆく娘と男との落着きはらった様子がわからなかった。自分は彼らに引渡されたのであり、彼らが自分を手放すなら、木片のように倒れるにちがいなかった。二人の小さな眼からは、鋭い視線があちこちと走り、彼らの規則正しい足取りをKは感じるのだったが、ほとんど一歩一歩彼らに運ばれている有様なので、それに合わせることはできなかった。ふと、二人が自分に何か言っていることに気づいたが、何を言っているのかはわからず、ただ騒音だけが聞えてきた。その騒音はあたりにいっぱいで、それを貫いて海の魔女のような変化のない高い調子が響くのが聞えた。
TOPに戻る
-
iboard BASIC
-