コピー
最近Kは、ビュルストナー嬢とほんの少しでも話すことができなかった。きわめてさまざまなやりかたをしてみて、彼女に近づこうとしたが、彼女はいつでもそれを逃れることを心得ていた。事務室からすぐ家に帰り、明りもつけずに部屋にこもり、長椅子の上にすわって、控えの間をながめること以外に何もしなかった。たとえば女中が通り過ぎ、人のいないらしいその部屋の扉をしめてゆくと、彼はしばらくしてから立ち上がり、それをまたあけてみるのだった。朝はいつもより一時間ばかり早く起きたが、おそらくビュルストナー嬢が勤め先に出てゆくとき、彼女とだけ出会うためだった。ところがこんな試みがどれもうまくゆかなかった。そこで、彼女に勤め先にも部屋あてにも手紙を書き、その中でもう一度自分の態度を弁明しようとし、どんな償いにも応じる旨を申し出、彼女が置こうと思うどんな限界もけっして踏み越えないことを約束し、一度会う機会を与えてほしいということだけを懇願し、あなたと相談しないうちはグルゥバッハ夫人ともどうしようもないのだから、特にそうしてほしい、と言ってやり、最後には、次の日曜日には一日じゅう部屋にいて、自分の懇請を聞きとどけてくださることを約束するような、あるいは少なくとも、何であってもあなたのおっしゃることに応ずると約束しているのになぜ私の懇願をかなえていただけないのかを説明するような、なんらかの合図をお待ちしている、と言ってやった。
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