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それでも彼にはほんとうは自由な時間がたっぷりあった。というのは、ギーザはふだん、ただ授業時間中と練習帳の点検のときにだけ、彼に姿を見せるのだ。これはむろん打算からやっていることではなく、彼女はのびのびした生活が好きで、それゆえひとりでいることが何よりも好きであり、おそらく家にいて完全な自由を味わいながら長椅子の上に身体をのばすことができるときがいちばん幸福なのだった。そんなとき、彼女のそばには猫がいるが、これがもうほとんど動けないので、別にじゃまにもならない。そこでシュワルツァーは一日の大部分を仕事もしないでぶらぶら過ごすのだが、これがまた彼には好ましいのだ。というのは、そういうときにはいつでも次のような機会があるわけで、彼はそんな機会を十分に利用もする。つまり、そんなときにはギーザが住む獅子街へ出かけていき、屋根裏の彼女の小さな部屋まで上がっていって、いつでも鍵がかかっているドアのところで聞き耳を立て、部屋のなかが例外なくなぜかわからぬほど完全に静まり返っているのをたしかめると、また急いでそこを立ち去っていく。ともかく、それでも彼においてもこうした暮しかたの結果がときどき現われた。――だが、けっしてギーザの面前ではそんなことはなかった――それが現われるのは、ほんのちょっとのあいだ目ざめる役所一流の尊大さを滑稽に爆発させるときだけである。その役所一流の尊大さというのは、むろん彼の現在の地位にはすこぶるぴったりしないものだ。とはいえ、そんなときにはたいていはあまりかんばしくない結果になるのだった。そのことはKも体験していた。
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