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444.米原

昼休みが終わるまであと七、八分。僕は保健室へと到着した。白い清潔な扉が不潔な僕を拒んでいるかのように思えた。もちろんそれは錯覚で、僕自身のなけなしの良心がそう思わせているのだろう。
 これから行う計画は何度も頭の中で予習したが、それでも心臓は早鐘のごとく打っていた。
「失礼します」
そう言って保健室の扉を開くと、そこには養護教諭が一人だけ椅子に座っていた。周りを見渡しても他には誰も見当たらない。第一条件クリア。僕は心の中でガッツポーズをした。
「はーい、どうしたの?」
笑顔で迎え入れてくれたのは養護教諭の岸田あゆみ先生だ。優しさがそのまま形を成したかのような柔和な顔立ちをしていて、生徒の間でも時折名前があげられるほどの美人である。
 もし養護教諭があゆみ先生でなければ、僕はこの計画を実行することはなかったに違いない。
 これから、僕はあゆみ先生に適当に嘘をついてペニスを診察してもらう。そして、そのまま掃除の時間になればあの若菜さんが保健室に入ってくるだろうから、二重にペニスを見てもらうことになる。計画に穴は多いが、運よくことが運べば二人の女性に僕のペニスを見てもらえる。この計画を思いついたときは興奮のあまり寝られなかった。
 あゆみ先生の優しさを利用するようでわずかに心は痛んだが、しかしそれでも計画は変更しない。
「あの、すいません……その……」
僕はわざと歯切れ悪く言った。直球で本題に入っても良かったが、あまりにも思い切りが良すぎると疑われてしまうのではないかと思ったからだ。きっとあゆみ先生なら生徒を信じてくれるだろうとは思っていたが、念には念を入れておく。
「えっと、どうしたの? どこか怪我したとか?」
「実は……」
読み通りあゆみ先生は僕を心配しているようだった。先ほどまで浮かべていた笑みはなりを潜め、心配そうな顔で僕のことを覗き込んでいる。そこで僕は努めて深刻そうな顔を浮かべて、小声で話した。
「えと、ぺ、ペニスが痒いんです……」
「あ、え、それは大変だね! 大丈夫かな」

 それを聞くとあゆみ先生は驚いた表情を浮かべてあたふたと落ち着かない様子になった。

「……どんな風に痒いの?」
「えっと、先端? の方が痒いんです」
「先端、えーっと、その、粘膜の辺りのこと?」
「多分そうです」

 おそらく先生は、亀頭のことを言っているのだろう。誤魔化し、ではないが女性がぼかしてでもペニスのことについて話しているというのは、少しばかりくるものがある。

「病院には行ったの?」
「行ってません……病院に行くとなると、親に言わないといけないじゃないですか。その、それはなんだか恥ずかしくて」
「そっかぁ」

 普通の人間なら、他人に話すよりは親に話す方が恥ずかしくないのではないか、と多少でも疑いを持ってしまいそうなものだが、あゆみ先生は何の疑いもなくこれをすんなり受け入れてしまった。

「どうだろう、傷とかできてたりするかな? もしかしたらそこからバイキンが入ったりしたのかもしれないね」
「傷、ですか。自分でも見てみたんですが、よくわからなくて……
 そうだ、自分で見てもわからないので先生、ちょっと見てもらえませんか?」
「……え!? あ、うーん」

 あゆみ先生は一瞬硬直し、しかしすぐに持ち直して口を開いた。

「そうだなぁ……どうなんだろう」

 しかしそう言うと、あごに手を当て考え込んでいる様子でしばらく黙り込んでしまった。嫌悪とかそう言った表情はいまのところ見られず、真摯に考えてくれているようだ。

「あ、いや、別に私が見たくないっていうわけじゃないんだよ? ただ、どうなんだろう、保健の先生として……」
「お願いします! どこか変なところがないか見てほしいんです!」

 僕は、気が付けば先生ににじり寄ってそう言っていた。大声と言うほどではないが、それなりの声量が出た。なぜだか、ここで強く押していかなければ、完全に拒否されてしまうだろうという直感が僕の中にあった。

「……うん、じゃあちょっとだけ見させてもらおうかな」

 そして、あゆみ先生がそう言った瞬間、僕はもう崩れ落ちそうなほど先生に感謝した。先生が、生徒想いの良い先生で居てくれて本当によかった。そうでなければ、僕はただ性欲を滾らせたまま家に帰ることになっていた。
 部屋の時計を見上げれば掃除の時間まであと五分。交渉は長い時間掛ったように思えたけれどほんの二、三分の出来事でしかなかった。このまま順調にいけば、若菜さんにも上手く見せられるだろう。

「じゃ、じゃあよろしくお願いします」
「あ、ちょっと待っててね」

 あゆみ先生は立ち上がり窓に近付くと、勢いよくカーテンを閉めた。僕のことが外から見えないようにという配慮だろう。
 そしてそのまま入口に近付いていくと、かちゃりとカギを閉めた。そう、カギを閉めたのである。間違えて生徒が入ってこないようにという極めて常識的な配慮だった。
 僕は落胆した。これでは若菜さんに見てもらうことが出来ない……しかしながらその落胆もほんの数秒のことだった。それはあゆみ先生に見てもらうだけでも十分に幸福なことだと気づいたからだった。

「それじゃ、そこに座って」

 促されるまま白いベッドの縁に腰かける。

「うん、じゃあズボンを下ろしてくれるかな」
「分かりました」

 ベルトを外し、ズボンのチャックを下ろす。そして、そのまま一気にズボンを足首まで下げた。すると履いていたトランクスが姿を現す。
 あゆみ先生の視線がトランクスの中央部に集まっていることを感じた。このままトランクスを下ろせばあゆみ先生の視界の中には僕の包茎ペニスが現れてしまうのだ。海綿体にわずかに血液が集まっていくのを感じる。まずい、このままでは勃起してしまうかも――

「――パンツも、下ろして」
「は、い」

 言われるがまま、僕はトランクスを引き下げた。

「あ」

 出てくる瞬間、僕のペニスが僅かに揺れた。先っぽまで皮を被っているのは相変わらずで、大きさが先生の親指ほどしか無いのもいつも通りのことだった。
 そんなペニスを見て、先生の顔は若干桃色に染まり、その表情はわずかな笑みを浮かべたまま固まった。
 先生はこれを見てどんな風に思ったのだろうか。小さいとか、包茎とか、そう考えて、心の中で僕をあざ笑っているのだろうか――

「じゃあ、よく見させてもらうね……」

 ――先生は僕をあざ笑っている様子はなかった。ただ、女神のような微笑を浮かべるのみである。

 あゆみ先生の顔が僕のペニスに触れそうなほど近づいてくる。余った皮が見苦しい包茎ペニスを次の瞬間口に咥えてしまうのではないかと思うほどの近さでじっくりと調べている。

「あっ……」
「ん? 大丈夫? 痛かったかな」
「だ、大丈夫です」

 突然あゆみ先生の白魚のような指が僕のペニスをつまみ上げた。余った皮の先っぽを無造作に指で挟んで持ち上げている。日頃の皮オナニーによって鍛えられた包皮は、それだけで射精してしまいそうなほどの快感を覚えてしまった。
 そうなってしまえば当然、僕のペニスはむくりと頭を持ち上げ、瞬く間にすっかり勃起してしまった。あゆみ先生はその一部始終を目の当たりにして、顔をさらに赤くしている。

「ごめんなさい!」
「き、気にしないで。若い男性なら当然だから」

 勃起している最中も、あゆみ先生は驚愕しながらも僕のペニスの皮を離すことはなかった。その刺激のあまりの気持ちよさに勃起の勢いはフルを通り越して限界突破している。しかしこの時に至っても大きさ自体は勃起する前とほとんど変わらないのが悲しくもあった。

 ペニスは、ピクピクと先生の指の間で独立した生き物のように脈動している。しかし健気なあゆみ先生は勃起に物怖じせず、ペニスをあちこちにまげて上下左右様々な方向から傷を探してくれている。
 正直に言って、僕のペニスは何時射精してもおかしくない状況だった。ほんの少しのきっかけがあれば、あるいはきっかけなどなくともこのままの状態で居ればものの数秒で勢いよく精液を噴き出すことだろう。
 そして、その射精感が頂点に達しようとしていたとき――突如として、あゆみ先生はその手を離してしまった。もしかすると、僕の射精を感じ取ってその前に手を離したのかもしれない。
 僕はその落差に混乱し、射精できなかった切なさにペニスを滑稽にひくひくと揺らす。

「うーん、傷らしきものは分からないなあ。……あ、ちょっと待って、今拭くね」

 僕のペニスの先から、我慢汁が僅かに漏れ出していた。それは一滴の雫となってとろりと地面に向かって伸びていく。
 あゆみ先生は近くにあったティッシュボックスから一枚ティッシュを引き抜くとその我慢汁が地面に落ちないように受け止め、そのまま僕のペニスの先っぽをゆっくりと拭った。

「えっとどの辺りが痒いんだったっけ?」

 僕があゆみ先生に欲情して、射精してしまいそうになったということにきっと先生は気付いているだろう。それなのに、そんなことはまるで無いこととでも言うかのようにあゆみ先生は言う。多分、優しいあゆみ先生は僕の方が恥ずかしいのだとでも考えているのではないだろうか。

「このあたりです」

 相変わらずピクピクと動くペニスの亀頭の部分を、僕は円でなぞるように指さす。勃起していても、先っぽまで僕のペニスは皮を被っていた。
 おそらくあゆみ先生も包茎のことが気になったのだろう、ペニスの根元を持ってしげしげと亀頭部を眺めた後、上目遣いに僕の方に視線をやった。

「ここ、皮は剥ける?」
「一応剥けます」
「じゃあちょっと剥くからね。痛かったら言ってね」

 あゆみ先生は右手の人差し指と親指でペニスの先端を挟み込むと、そのままゆっくりと下に下ろし始めた。

「大丈夫?」
「……は、はい」

 皮が剥け、次第にピンク色の亀頭が顔を出してきた。亀頭はすっかり我慢汁に塗れていて、てらてらと保健室の明かりを反射して光っている。そしてあゆみ先生の指が亀頭の真下まで移動すると、すっかり僕の亀頭の全体が露出していた。
 あゆみ先生がゆっくりと皮を下ろしてくれたおかげで何とか射精はせずに済んだが、我慢汁はどくどくと流れ出てきている。それが少し恥ずかしかった。

「拭くねー」

 もはや慣れた口調でそう言うとあゆみ先生はペニスの先をティッシュで拭った。
 そのティッシュを捨てるため先生が手を離した瞬間、僕のペニスの皮はずるりと元の位置に戻っていってしまった。その様子があまりにも情けなかった。先生はすこし面食らったようだがまた先ほどと同様にしてゆっくりと皮を剥いてくれた。

「うーん、ちょっと汚れが溜まってるかな」

 見下ろせば、亀頭の周りには白っぽい恥垢がところどころついている。あゆみ先生がそれらを指さして僕のことを見上げた。

「傷らしきものは見当たらないし、もしかするとこうして汚れが溜まってるのが痒みの原因かもしれないね」
「傷は無かったんですか、良かった……」

 まるで安堵した風を装って僕は呟いたが、そんなことはどうでも良かった。先生の非常にゆっくりとした皮コキによって、射精はできないのにも関わらず僕のペニスは異常なほどに疼いていた。早く射精したい。自分で扱いてでもいいから一刻も早く精液を吐き出したくて仕方がなかった。

 できることなら、あゆみ先生の見ている前で射精したい――

「この汚れも拭いとこっか」

 あゆみ先生はそう言うとガーゼを取り出して、何かしらの液体で湿らせると、僕の亀頭をなぞり始めた。僕の小さなペニスの皮を左手で抑えつけて、右手に持ったガーゼをくるくると亀頭の周りを回転させる。

 僕は、皮オナニー以外のオナニーをしたことがない。それは重度の包茎と長年の皮オナニーによって亀頭があまりにも敏感すぎるためだ。

 そんな部分をガーゼなどで拭かれてしまえばどうなることか――

「あ、先生! ごめんなさい!」
「ど、どうしたの……!?」

 いきなり謝り始めた僕に、先生は困惑しながら顔を上げた。その際ガーゼが亀頭をひときわ強く撫ぜ、それがとどめとなった。

「……きゃっ!?」

 僕の体が勢いよく反応すると、先生が小さく悲鳴を上げた。きっとそれは僕の射精の瞬間を目の当たりにしてしまったためだろう。
 ドクドクと僕のペニスが力強く脈打つ。そしてある時ひときわ強く脈打つと、その瞬間ペニスの先端から白濁とした精液が勢いよく吐き出される。
 初めのそれは真っ先に目の前に居た先生の顔に当たった。精液が先生の花から額に掛けてべったりと張り付いている。先生は驚きに眼を瞑り、口を堅く閉ざしている。

 あまりの気持ちよさに僕は腰が抜けてしまいそうだった。射精は何十秒も続いているのではないかと思うほど長く続き、ペニスは二度、三度と次々精液を放出していた。
 しばらくしてようやく快楽の波が収まると、僕はようやく我に返った。

「せ、先生大丈夫ですか!?」
「大丈夫、大丈夫だから」

 あゆみ先生はティッシュを二三枚引き抜くと、自分の顔を念入りに拭いた。

「どう、顔にまだ着いてる?」
「大丈夫です、全部取れてます」
「えっと……」

 精液のついたティッシュを手のひらに乗せたまま、先生は少し黙り込んで、それから口を開いた。

「ごめんね」

 意外なことに、先生の口から最初に放たれたのは謝罪の言葉だった。

「その、加減がよくわからなくて、恥ずかしい思いさせちゃった……」

 先生は、僕をどうこう思うよりも先に、自らに非があったと考え謝ってきたのだ。僕はその姿に賢者タイムも相まってとんでもない罪悪感を覚えてしまった。僕はなんて罪深き男なのだろう。

「そんな、全然恥ずかしい思いだなんて……その、むしろ気持ちよくてよかったっていうか!」

 一体僕は何を言っているのだろう。こんなことを言ったら気持ち悪がられてしまうだけなのに――

「そっか、アハハ」

 ――先生は気持ち悪がったりはしなかった。むしろ僕の言葉に安心し、笑ってしまっている。

「って、ああ!」

 笑っていた先生が突然そんな声を上げた。視線は僕のペニスよりもさらに下の方へと向いている。釣られて僕も視線を下におろす。
 そこには、僕の大量の射精のあおりを受けたトランクスと学生ズボンがあった。

「精液がズボンに……」

 先生は直ぐに僕の足元からズボンとパンツを引っこ抜くと、小脇に抱えて立ち上がった。

「五時限目もあるから精液が付いたままじゃ不味いよね、すぐに洗ってあげるから待ってて。掃除の時間中には洗濯も乾燥も終わらせてあげるからね!」
「え、その間僕は何を着ていれば……」
「あ、そっか……ここには着替えもないし……とりあえずこのタオルを腰に巻いてベッドに座って待っててもらえるかな」

 足に着いた精液をふき取ってから、手渡されたほんの小さなタオルを何とか僕は腰に巻き付ける。そのタオルはあまりにも頼りなかったが、僕の小さなペニスならかろうじて隠してくれていた。

「掃除の子には病人が寝てるって言っておくから、カーテン閉めておいてね!」

 あゆみ先生は最後にそう言い残すと、さっそうと保健室から出て行ってしまった。

 ……ん? 先生は最後になんて言ったっけ。

 ふと時計を見上げれば、ちょうど掃除の時間だった。


投稿日時:2019/04/28 12:36

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