分からぬは夏の日和と人心
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275Ryou Firefox
2014/03/07 10:40
 近頃一部の演劇評論家の間に、「進歩的演劇」といふ言葉が使はれてゐる。これには勿論特別な意味を含ませてあるのであつて、僕たちの書くものはその部類にははひらないらしい。別に入れてもらはなくてもいゝが、そんな勝手な名前をどんな演劇が独占してゐるかといふと、旧左翼系のイデオロギイをちよつぴり臭はせたもの、即ち社会主義的問題劇なのである。
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 嘗ては「前衛劇」といふ言葉がプロレタリア劇の代名詞であつた。日本だけで(或はロシアもさうかも知れぬが)そんな勝手な言葉の使ひ方をするのは甚だ困るのであつて、芸術の領域に於て「アヴアン・ギヤルド」の運動と云へば、断るまでもなく、既成陣営からのいろいろな面での離反、突出、先行を指すのである。

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274Ryou Firefox
2014/03/07 10:39
これは、老婆心でなくつてなんであらう。但し、この老婆心は、一面、この種の作品を、「気ざさ」から救ふことにもなるのであるが、川口君に、断じてその心配は無用である。
 私が特に、阪中、川口両君の名前を挙げたのは、必ずしも二人を比較する意味はないのだが、今将に興らんとしつつある新劇時代が何等かの意味で、前時代よりの飛躍を目指してゐるとすれば、それは最も戯曲らしい戯曲を提げて現れた川口君と、従来の抒情風な作品から、漸次、生活的内容を整へて、遂に、「馬」三幕の如きファンテジイに富む社会喜劇にまで到達した、阪中君の劇作家的成長とを結び合はせて、必ず、戯曲と舞台との提携へ進むものと断言し得るのである。そして、そこからこそ、「われわれの芝居」が生るべきであると信じてゐる。(一九三二・四)

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273Ryou Firefox
2014/03/07 10:39
 兎に角、この調子を押し進めて行けば、同君の将来は、実に洋々たるものがある。この数年来、これほど戯曲らしい戯曲を私はまだ見てゐない。中村正常君の「赤蟻」、阪中君の「鳥籠を毀す」、それぞれ文学として、又は戯曲に盛り得る最高のリリシズムとして、当時私は推賞を惜まなかつたものであるが、戯曲の常道を行く技巧と形式の上からは、完成の域に近い意味で、やはり、この「二十六番館」を挙げるべきであらう。これは、先づ文学的であるよりも舞台的である。文学的には感覚の鋭さを見ることはできないが、舞台的には、心憎いスマアトさを示し、実際、日本の俳優では、その効果を生かすことが困難だと思はれる個所が到るところにある。ただ、しかし、前に述べた明瞭な欠点と、作者の「新帰朝者」らしい老婆心が、この作品を幾分、取りつきにくいものにさせてゐる。私が、老婆心といふのは、人物のあるものを、強ひて解りよく書かうとしてゐるところ、例へば、人物の性格とミリュウの関係を故ら結びつけようとしてゐることなどである。

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272Ryou Firefox
2014/03/07 10:37
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271Ryou Chrome
2014/02/22 00:05
田所  返事のできない理由です。
一寿  返事ができるかできんか、まだ訊ねてもみないぢやないか。
田所  わからないかなあ。さつき云つたでせう。初郎君への返事は、まるで返事になつてゐません。
一寿  或は、それが返事の代りかも知れんな。
田所  さうおつしやるのは、あなたがまだ、肝腎な点を御存じないからです。僕たちの間柄を、普通なもんだと思つてらつしやるからです。
一寿  穏かならんことを云ふぢやないか。男女の間柄を、普通でないといふと、どういふことになるね。
田所  愛子さんを此処へ呼んでごらんなさい。僕の前へ立たせてごらんなさい。すぐにお察しがつくと思ひますから。


一寿は、茫然として一つ時相手の顔を見つめてゐる。が、やがて、起ち上つて、奥にはいりかける。しかし、そのまま、思ひ返して座に戻る。

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270Ryou Chrome
2014/02/22 00:05
田所  いや、結婚するしないは別として、僕の名前も顔も忘れてゐられる道理はないと思ふんです。まる二日、ああして、一緒に顔をつき合はしてゐたんですからね。お宅で一日御厄介になつた挙句、翌日は、みんなで奥多摩へピクニツクをしました。途中、冗談も云ひ合つたり、すつかり仲好しになつたつもりなんです。
一寿  岡田君とごつちやになつてるんぢやないかね?
田所  まあ、しかし、そのことは、一度お目にかかりさへすれば、解決がつくと思ふんですが、今日の様子では、それもむづかしいやうだし、近いうちにまた出直して来ませう。ただ、僕が来たことについて、何か誤解をされてゐては困るんです。会ひたくないと云はれるんなら、たつてとは云ひませんが、さうなると、僕の方でもその理由を伺つておきたい気がします。
一寿  待つてくれ給へ。どうもよく腑に落ちんが、君の言葉の調子でみると、愛子は君の意志を知つてゐて、わざと顔を見せたがらんのだといふやうに聞えるが、それなら、君も返事を聞く必要はないんぢやないのかね?
田所  返事よりも、理由です、僕が聞きたいのは……。
一寿  なんの理由……。

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269Ryou Chrome
2014/02/22 00:05
田所  さうおつしやられると、実は、どうしていいかわからなくなるんです。まつたく取りつく島がないわけなんで……。といふのは、順序として、お話しなければわかりませんが、以前、初郎君に一度愛子さんの心持を訊いてもらつたことがあるんです……。
一寿  ほう、すると……?
田所  むろん、手紙でなんですが、そのお返事つていふのが、まつたく予想外で、僕はそのために、却つて、愛子さんの真意がわからなくなりました。つまり、その文句によりますと、――田所といふ男は、名前も顔も覚えてゐない。従つて、なんらの関心も持つてゐない。何れにせよ、自分はもともと結婚はしないつもりなんだから、その話はこれきり打切つてもらひたい……。
一寿  結婚せんつもりだつていふのかね。へえ、そりや僕も初耳だ。そんなら、君、ほつとき給へな。

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268Ryou Chrome
2014/02/22 00:05
悦子が奥へはいると、両人はしばらく、黙つて煙草を吸つてゐる。



田所  どうも、少し、切り出しにくいんで……。
一寿  さあ、遠慮なく云ひ給へ。但し、僕の力に及ぶことかどうか……。
田所  それが問題なんですが、ぢや、はつきり云ひます。実は、愛子さんのことで御相談があるんです。
一寿  …………。
田所  僕も、やつと一等運転士の免状も取りましたし、そろそろ……。
一寿  ああ、わかつた。愛子をくれと云はれるのか。そいつは、僕に相談してもなんにもならんよ。僕から取次いでもいいやうなもんだが、あれも自分のことは自分でやると云つとる。なるほど、それだけの頭もできとるやうに思ふから、僕も一切信用して、放任主義を取つとるんだ。そりや、君、世間の親達は、娘の将来にあれこれと喙を容れたがるが、それだけ娘を幸福にできるもんか? 僕はその点、親の権能といふもんを、正しく認識しとるつもりなんだ。娘の方から相談してくれれば、こりやまた別で、当りさはりのない注意ぐらゐしてやれんこともないが、僕んとこの娘たちは、ことにあの愛子といふ奴は、なかなか自信家でね。僕からでも、そんな話を持ち出さうものなら、てんで相手にはせんよ。まあまあ、そこはよろしくやり給へ。

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267Ryou Chrome
2014/02/22 00:04
悦子  愛子はなんだか気分がわるいんで、失礼するつて申してますわ。少し風邪気味らしいんですの。
田所  (ぢつと悦子の顔を見つめ)ちよつと顔だけ見せるつてわけに行きませんか。
一寿  今朝、食事の時は起きて来よつたぢやないか。
悦子  起きてはゐるんですよ。でも変な顔してお目にかかるのいやなんでせう。さうさう、岡田さんはどうしていらしつて?
田所  相変らずですよ。今もお話したんですが、奴さん、この夏お嫁さんを貰ひましてね……。
悦子  あら……。
田所  それで可笑しいんです。上陸するたびに、まあ家へ帰るのはいいとして、船へ戻つて来ると、きまつて腹をこはしてるんです。なんでも、いきなり汁粉をこさへさせて、そいつを朝昼晩と食ふらしいんですな。
悦子  まさか……。
田所  船乗りなんて、みんな子供みたいなもんですよ。
悦子  それでゐて、何時かは、麦酒をあんなに滅茶にお飲みになつて……。
田所  あれは初郎君がわるいんだ。先生は人をおだてる名人でしてね、煽動家ですよ。うちの船長がその手に乗つて、たうとう黒ん坊の女と寝たつて話……あ、いけねえ……。
一寿  何とね?
悦子  いやねえ、黒ん坊の女とですつて……。
一寿  ああ、君がかね。
田所  いや、僕の話ぢやないんです。ああ、もうよさう。どうもたまに陸へ上ると、頭の調子が狂つて来やがる。
一寿  ああ、君、なんか特別な話があるんだつたね。こいつがゐちや具合がわるいか。
悦子  あたしはもう引込むわよ。明日の準備もありますし……では、ごゆつくり……。

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266Ryou Chrome
2014/02/22 00:04
舞台は前に同じ。
数日後の日曜日――午前十時頃。
一寿と田所理吉(二十九歳)。主客は卓子を挟んで向ひ合つてゐる。田所は、二等運転士の服装、健康な赭顔に絶えず微笑を泛べてゐる。



田所  あれが香港かハワイあたりだつたら、病院も相当なのがありますし、ことによつたら、あんなことにならずにすんだかも知れません。しかし、丁度、発病の時機もわるかつたんです。
一寿  いろいろ、みなさんにお世話をかけたことだらう。日頃の不養生が祟つたんだね。酒はあまりやらんやうだつたが、あの通り、どか食ひをしよるんでね。
田所  いや、初郎君なんか、まだ神妙な方ですよ。去年の夏、一緒に伺つた岡田なんて奴は……。


そこへ悦子が現はれる。

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