分からぬは夏の日和と人心
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2014/02/22 00:04
一寿 お前たちに「お母さん」と呼ばせるかどうか、そこまではなんとも云へない。お前たちの意見もあることだらう。ただ、かういふことは、内証にしておくべきでないと、今ふと考へついたんだ。お前たち二人は、なんにも心配しないで、伸び伸びと、自分の生活を築いて行きなさい。この女も、半生は不仕合せだつた。わしも弱かつた。これも縁だらう。黙つて見逃しておくれ……。
らくと悦子とは、云ひ合はしたやうに顔を伏せる。愛子は、ひとり、昂然と、父の方を見据ゑてゐる。
父親退場。
悦子 ぢや、ちよつと、あたしたち出て来ますわ。
娘達退場
らく、室を出ようとする。
娘桃枝、そつと現はれ母親の顔を見る。
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2014/02/22 00:04
奥で、「あ、さう、さう」といふらくの声。
悦子 球なんか自分で替へなさいよ。
そのうちに、らくが、電球を持つて現はれる。
らく これでよろしいでせうか。
愛子は引つたくるやうにそれを受け取つて、すかしてみる。
愛子 駄目よ、これ、二十四ワツトぢやないの? 四十でなきや、暗くつて、字も読めないわ。
一寿 (娘のやや粗雑な言葉の調子を聞きとがめ、しばらく、ぢつと眼をつぶつてゐるが、やがて)おい愛子、それから悦子、お前たちに云つておくがね……。(長い間)この女は、もう雇人ぢやないんだよ。
この突然の宣言に、女たち三人は、それぞれの驚き方で、すくむやうに後退りをしながら、互に妙な会釈を交す。
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2014/02/22 00:03
愛子 (それを全部そのまま自分の方へ引寄せ、悦子に)ぢや、これで、こないだの分、みんな貰つとくわよ。かまはなくつて?
悦子 (笑ひながら)しかたがないわ。またいる時借りるから……。お父さん、愛ちやん、すばらしいピアノを買ふんですつて……。独逸製よ……。
一寿 そんな金が何処にあつた?
愛子 安い出物があつたの。もち、セカンド・ハンドよ。たつた四百円ですもの。
一寿 だから、そんな金を何処から引出したんだ。
愛子 あら、引出すつていへば銀行ぢやないの?
悦子 お父さん、御存じない? 愛ちやんは財産家よ。(妹に眼くばせをして)云つてもいいこと?
愛子 人の貯金のことなんか、どうだつていいわよ。さうさう、ねえ、パパ、このお人形、あたしに頂戴ね。せんから欲しかつたの。(飾棚の和蘭人形を取上げる)
悦子 あら、ずるいわ。
一寿 そいつはなあ……まあいいか。人にやるんぢやないよ。
愛子 (奥に向ひ)ちよつと、おらくさん……小母さん……あたしの部屋の電球とり替へといてくれた?
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2014/02/22 00:01
歯科で銀歯を白くする
歯科には、虫歯の時ぐらいにしか行くことがないと思っていましたが、最近では予防やホワイトニングなどのためにも利用する人が増えてきているようです。また銀歯を白くするという目的で歯科に行く人もいるということを少し前に知って、驚きました。
銀歯を白くするという情報は、あるテレビ番組で見て知りました。銀歯は見た目が悪いからという理由で白くするようですが、私は銀歯が悪いとは思わないですし、あまり気にしたこともありませんでしたので、少し驚いたのです。また、その処置にかかる費用は数万円以上とかなり高額なようですので、さらにビックリしました。
世の中にはいろいろなコンプレックスがありますが、その人にとっては深刻なものですので、高額とはいえ克服できる方法があることは良いと思いました。
歯科医院経営コンサルは医経統合実践会│ひとりで歯科医院経営で悩まない
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2014/02/11 14:56
かうみて来ると、戦争に敗れた国ではあるが、そのことから、やはり、いくぶんのプラスが劇文学のうへに現はれて来さうでもある。
細かい吟味は今は差控へるが、その一つの例は、元邦楽座、現ピカデリイ劇場の「現代劇」への解放である。これは実験劇場と名づけられ、最も合理的な運営と企画とをもつてわが演劇界の宿弊に挑戦しようといふのである。優秀な新作が需められてゐる。従来の標準ではやゝ不向きかとも思はれるが、また同時に、従来の如何なる劇場もはつきりした目標にしてゐなかつたやうな、ロング・ランの興行に堪へる「どつしりした」戯曲の生産が促されるであらう。
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2014/02/11 14:56
これこそ感覚の領域に属する問題で、書物などいくら読んでもわかりはしない。西洋の芝居の伝統のなかに深く根をおろし、それが現代精神によつて鮮やかに活かされてゐる舞台の雰囲気は、トオキイのある種のものゝなかに見るものが見れば、如実に現はれてゐる。それをキヤツチできる時代が、こゝ十数年来と言へるのである。むろんわが新劇俳優のいくたりかは、それをキヤツチしはじめた。そして、舞台がやうやく、現代劇の軌道に乗らうとしてゐる。劇作家がさういふ新鮮な雰囲気に無関心なわけはない。それほどトオキイは観てゐないよと豪語する劇作家が或はゐるかも知れぬが、影響とは常に直接に受けるものとは限らぬ。一つはまさに時代である。
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2014/02/11 14:56
さて、第三の外国トオキイの影響については、事、微妙であつて、すこし独断になるかも知れぬが、私は、ほんとの影響とは、実はさういふものではないかと思ふ。誰が、どんな作品で、外国トオキイの影響をみせてゐるなどと言へるやうなものではない。そもそもトオキイが輸入されはじめた頃から、われわれは、外国俳優の演技に直接ふれることができたわけである。外国戯曲を読んで、極く肝腎なところ、その作品の演劇的な本質ともいふべき部分は、おほかた見落されてゐるのが普通であつた。翻訳劇上演といふ勉強の好機会はあつても、実は、日本の俳優では、その肝腎なところの、また微妙なところが、どうにもならぬ状態で残されてゐたのである。
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2014/02/11 14:55
私はふと近頃の面白い経験を想ひ出した。ある若い雑誌記者の来訪を受けたのだが、原稿註文の話を切り出されて私はまごついた。私に四五十枚の短篇小説を書けといふのである。改まつて言ふのもをかしいが、私はもとから、新聞や娯楽雑誌になら続きものゝ小説みたいなものを書いてはゐるが、いはゆる純文学の創作欄には、戯曲しか発表したことはない。それで、そのわけを言つて断ると、その若い編輯者は不思議な顔をして私を見直し、私が戯曲作家であることを今まで知らなかつたと、率直に告白したのである。無理もないことで、十幾年も昔のことをこの若い記者は知らう筈もない。私は気の毒でもあり、愉快でもあり、試みに戯曲でもよいかと念をおしてみた。よいと答へたのにはすこし暇がかゝつたやうである。
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2014/02/11 14:55
第二の文壇ヂヤアナリズムの助力といふ点は戯曲家側としては、まだまだ慾を言ひたいところであらうが、しかし、公平にみて、読み物としての戯曲をこれくらゐ取りあげれば、まづ、劇場に代つて新人を世に送る機会は少いとは言へないであらう。
たゞ、私の印象から言へば、一般編輯者は、戯曲に対しては標準をどこにおくかの自信がないやうである。小説の場合だと、当否は別として、それぞれ一家の見識を備へてゐるやうに思はれる編輯者でも、戯曲の場合は、つい、名前のみを当てにする傾向がないでもない。ポスター・ヴアリユウだけで用の足りる一面も察せられるけれども、新人発見の熟慮を小説とのバランスに於て、もうすこし、高めてほしいと、私は切望してやまない。
既設の文学賞が戯曲に与へられる例の少いことを私はとやかく言ふものではないが、どこかの出版者が、詩賞と共に、戯曲賞を新しく作つてくれたら、私は非常にうれしいだらう。もう既に、私は、ヂヤアナリズムに甘へかゝつてゐるが、これこそ、現代に於ける劇文学の実情である。
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2014/02/11 14:55
ところで、さういふ作家の一群が存在しはじめた理由はどこにあるか。前にも言つたとほり、すべての条件にさしたる変りもないとすれば、それは、わが国に、やうやく、劇文学なるものが確立したといふこと以外にはないと思ふ。微々たる力ではあつたが、これはまさに、久しきに亘る新劇運動の賜である。そして、もうひとつは、文壇ヂヤアナリズムの、時に消長はあるが、戯曲そのものに対する寛容な取扱ひである。更に最後に私がはつきりこゝで公言したいと思ふことは、外国トオキイの影響といふことである。
この三つの理由をすこしくはしく敷衍すれば、第一の新劇運動、特に、築地小劇場以来の興行資本から独立した劇団活動は、さまざまな批判は加へられるにしても、一応、演劇の革新といふ役割を果し、特に、舞台と文学との接触に努めた功績を見落してはならぬと思ふ。つまり、現代俳優による現代戯曲の肉体化が、ある程度まで、作家のイメエヂとして創作の基本的な要素となり得るに至つたことである。