分からぬは夏の日和と人心
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295Ryou Firefox
2014/04/03 12:22
 さて、かういふ都合のいゝ比較は多くの場合できさうにはないが、私がこれから述べようとするわれわれ同胞の特異な性情は、これを単に「弊風」とか「短所」とか云つただけではすまされない、云はば精神機能の厳密な意味での障礙を指すものであり、風俗としてはグロテスクな、従つて、多かれ少なかれひとに嫌悪感あるひは滑稽感を催させるやうな習性となつてゐるのである。従つて、これをおほざつぱに「畸形」と称する場合、いちいち以上のやうな対照はできなくても、ほゞ私の意図するところは察してもらへると思ふ。

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294Ryou Firefox
2014/04/03 12:21
 そこで、この「眼科」でいふ「ヒステリイ性弱視」であるが、これはまづ「畸形的」と名づけることができるらしい。そこで、もう一歩進んで、一般精神機能、殊に、例へば、思考法とか、感受性とか、注意力とか、さういふ「心のはたらき」の上でも、「ヒステリイ性弱視」なる病名がぴつたりあてはまる一つの「畸形的」症状が考へ得られるのである。
 普通よく人物評などで「視野」が広いとか狭いとか云ふが、これも時によると、その「狭さ」の性質、程度によつては、この症状のあらはれかもしれぬが、それとはまた別個に、例へばすべてのことを自己中心、自分本位にしか考へられぬとか、一事をもつて万事を律したがるとか、あることに気をとられるとほかのことはまつたくお留守になるとか、は、明らかにこの「ヒステリイ」の徴候とよく似てゐる。少くとも、「ヒステリイ性心理的弱視」と呼ぶにふさはしい畸形的現象に相違ないのである。

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293Ryou Firefox
2014/04/03 12:21
 順序として、この問題を説くために極めて示唆に富む一つの事実をあげておきたい。それは眼科医学のある書物をみると、「ヒステリイ性弱視」といふ病名が出て来る。これには「外傷性神経症」といふ別名がついてゐるが、要するに、その症状にはいろいろあつて、その中で特に興味のあるのは、「視野狭窄」である。これにも、求心性視野狭窄、円筒状視野狭窄、螺旋状視野狭窄、などといふ様々な症状がある。これは、一見普通の眼でありながら、普通の視野のなかにはいつてゐるものがどうかすると見えない。見えなければならない筈のものが見えないといふ一種の視力変調をいふのであつて、求心性は一定距離に於ける左右上下の視野が交互にその一方中心に向つて狭められること、円筒状は、遠くはなれても視野の幅がおなじだといふもの、螺旋状は一定距離に於ける視野が視力試験中だんだん狭まつていくもの、である。
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292Ryou Firefox
2014/04/03 12:20
甘いものを食べる幸せ
駅にある某ケーキ屋さんが、春の新商品を発売しました。
といってもHPで見ただけなので実際は見てないのですが。
でもそれがとにかくおいしそうで、旦那に「帰りに買ってきて!」とお願いしました。
その日は色々とストレスがたまる日で、もうそのケーキだけを心の支えに頑張ってました。
そしてようやく旦那のお帰りです。
やったー!ケーキだー!と喜ぶ私に、開口一番「あれ取り扱ってないって」との非情な言葉。
ガーン、ものすごいショックでした。
仕方ないから私が好きそうな他のものを買ってきてくれたらしいのですが、やっぱりあれが食べたかったなぁとしょんぼりです。
でもせっかく買ってきてくれたんだから食べよう、と食べたらあら不思議、たまりまくっていたストレスがすーっと消えていきました。
結局私の体は甘いものならなんでもよかったようです。
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291Ryou Firefox
2014/03/27 20:15
奈緒子  ぢや、あたしから、云ふわ。あたし、あの方、好きなの。笑つちやいやよ。それで、若し、あの方が、あなたよりあたしの方を好きになつたら、もうそれつきりでせう。
由美子  それつきりだわ。
奈緒子  それつきりだなんて、あなた、それで、どうもない?
由美子  だつて、しかたがないぢやないの。
奈緒子  いゝえ、しかたがあるとか、ないとかぢやないの。あたし、ほんとのことを云へば、あの方が若し、あなたの方に行つてしまつたら、一寸、がつかりだわ。
由美子  いやな方……。
奈緒子  あなたも、ほんとのことを云へば、それを望んでらつしやるんでせう。
由美子  望んでるなんて……そんな……。
奈緒子  いゝえ、いゝのよ、ほんとのことを云つて頂戴、面倒臭いから……。それでね、あなたがさうだつていふことはわかつてるんだから、今のうちに、二人で妥協しとかうと思ふの。さうでせう、お互に、勝つたり負けたりするのは、いやぢやないの。
由美子  あたし、どうでもいゝわ。

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290Ryou Firefox
2014/03/27 20:15
由美子  このごろ、町田さん、あなたのお宅へ、たび/\いらつしやるんですつて?
奈緒子  えゝ、あなたのおうちへいらつしやるやうにね。
由美子  あたしのうち……。でも、あの方、兄さまのお友達なんですもの。
奈緒子  兄さまは、今、おうちにゐらつしやらないぢやないの。
由美子  それや、母さまとだつて、お話はあるし……。
奈緒子  だから、それでいゝぢやありませんか。あたしね、あなたに御相談があるの。
由美子  あの方のことで?
奈緒子  それより、あたしたちのことで……。
由美子  ……。
奈緒子  よくつて? あの方ね、あたしたち二人のうち、どつちかを、思つてるのよ。それ、わかるでせう。
由美子  ……。
奈緒子  そのうちに、きつと、どつちかのうちへ来なくなるわ。それはしかたがないとして、あなた、一体、あの方、どうお思ひになる?
由美子  どうつて……。そんなこと考へたことないわ。
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289Ryou Firefox
2014/03/27 20:15
 だいたい、各方面の推断は、やはり他殺だらう、といふ説に傾きましたが、一部では自殺説も相当根強く、たゞ、根本保枝だけは、だれからなんと訊かれても、絶対に自殺説を否認しつづけたのです。それは必ずしも、親友をかばふ気持ではありませんでした。大庭常子の性格も、境遇も、また、その思想も、決して、彼女を自殺に導くものとは考へられなかつたからです。そして、殊に、最近、彼女が口癖のやうにしてゐた「グラン・タムール」すなはち、「大いなる恋」の夢は、生きる意志の徹底した祝讃にほかならなかつたからです。
 それなら、根本保枝に言はせると、大庭常子の死は、なんと解したらいゝのでせう?
 保枝にも、それは、わかるやうで実はわからないのです。
 ――「誰でもない……グラン・タムール……」
 意識の朦朧としたなかで、大庭常子の呟いたこの印象的な数語を、たゞ、彼女だけの意味にとつて、歌姫大庭常子の絶望と歓喜の瞬間を、たゞ僅に想像し、そして信じるばかりでした。

 たゞ、この物語の作者は、神秘的なことを好みません。大庭常子を訪ねた一女性が、大庭常子自身であつたとしても、別になんの不思議もないわけではありませんか。

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288Ryou Firefox
2014/03/27 20:15
 藤本が、あたりを憚るやうに、保枝に言ひました。そして、眼で、そばに突つ立つてゐる笹山千鶴子に、あつちへ行つてゐるやうに相図をしました。
「さつき訪ねて来た女のひとつて、だれ?」
と、保枝は、自分だけがそれを知るものならと思ひながら、息をひそめました。
「……だれでもない……グラン・タムール……」
 たゞ、それだけです。
 それから一時間後に、大庭常子は、解しがたい謎をのこして眠るやうに呼吸を引きとりました。
 …… …… …… ……
 大庭常子の変死は、楽壇はもとより、世間の好奇心をそゝりました。金谷秀太と軽井沢の青年秋葉精の来訪は確実となりましたが、それ以上、なんら嫌疑を受けるべき証拠がないといふことになりました。もう一人の婦人の訪問者については、まつたく雲をつかむやうな話で、その婦人を見たといふたつた一人の人物、事務所の受附けの少女は、たゞ、洋服の、背の高い、三十ぐらゐの婦人といふだけで、人相や、声などについて細かいことをたづねると、それは、ひとりでに大庭常子そつくりの女性になるといふ、厄介な証人でした。

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287Ryou Firefox
2014/03/27 20:14
 ところが、厄介なことは、男の訪問客三人のうち、来た順序ははつきりしてゐますけれども、帰つた順番がどうも不確実で、そのうへ、男二人は前後して帰つたことだけ見とゞけてゐるのですが、一人の男と、女の訪問客とは、いつの間に帰つたか、つい気がつかずにゐたといふわけです。
 そして、更にまたこの事件を複雑にしてゐるのは、自殺にしろ、他殺にしろ、その方法と順序を示すなんの形跡も、手がかりもないことでした。つまり、それに用ひた薬品も、それを盛つた容器の類も、まつたくそのへんには見当らず、たゞ、午前中のある時刻に、件の書物が彼女の体内にはいつた事実だけが確かであるに過ぎないのです。
「根本さん、あなたから、ひとつ、最後に来た婦人の名前だけでも言はせてみていたゞけませんか」
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286Ryou Firefox
2014/03/27 20:14
「それが、あたくしはずつとお使ひに出てゐて、よく存じませんのですが……」
「下の事務所で、いちいち訪問者の訪ね先だけ聞くことになつてゐますからね。われわれはもう木戸御免だが……」
と、藤本は、次のやうな説明を加へます。――事務所の受附ではつきりわかつてゐるのは作曲家の巨摩六郎だけで、あとの男二人についてはどうもあいまいなことしか覚えてゐず、いろいろな印象を綜合すると、どうも、その一人は以前の伴奏者金谷秀太らしく、もう一人は、一度数週間前に訪ねて来たことのある例の軽井沢の青年に違ひないといふ断定が下されました。更に、最後の女の訪問者は、受附の言ふことが非常にあいまいでまるで見当がつきません。玄関をはいると、顔も向けずに、あつさり受附へ声をかけて、さつさと上へあがつて行つたので、よほどこの家に慣れてゐる人物とにらんでよく、それにしても、服装や、年配や、その他の特徴をいろいろ聞いても、それがいつこうに要領を得ず、相当の年のやうに思へたけれども、声は透きとほるやうな美しい声で、大庭常子の歌を聞くやうだ、などと、とんでもない比較をする始末ださうです。
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