分からぬは夏の日和と人心
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325Ryou Firefox
2014/05/10 22:44
 小萩は、寝台の上に腰をおろしたまゝ、彼の顔をみると、いきなり、黙つて、かぶりを振つた。眉にしわを寄せている。会いたくないという意味がすぐに察せられた。
「どうして?」
 と、彼は小声でたずねた。
「どうしてつて……わかつてるじやないの。いま、誰にも会いたくないの」
 彼は、ちよつとまずいなと思つたけれども、強いて会わせるにも及ばぬと考えなおし、
「あゝ、そんなら、それでいゝよ。なんの用事だか知らないけれど、こゝで長つ話はうるさいだろうから、散歩かたがたホテルまで送つて来るよ。どうせ、今夜はあそこへ泊めるよりしようがないだろうから……」
 彼は、戻つて来ると、二人に言つた。
「病人姿で人前に出るのはいやだというから、あしからず……。さて、こゝはごらんの通り客を通す部屋もないんでね。ぶらぶら歩きながら話そう。君たちは今夜はどうする予定だい? ホテルへ泊るなら案内するよ」
 そう言つて、彼は二人を外へ誘いだした。
「おれはただ、君の養蜂事業というやつを見学かたがた、山の空気を吸いに来たんだ。しかし、あゝいう女性がそばにいることは想像もしなかつた。羨ましい生活だな」
 と、南条己末男は、ほんとに羨ましそうに言つた

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324Ryou Firefox
2014/05/10 22:43
「結婚なんか、まだしないわ、ねえ、南条さん……。あたしたち、お友達になつたばかり……。だつて、南条さんが、兄さんを訪ねるつていうのよ。あたしも、すこし、お話があるから、連れてつてと頼んだの。それだけよ」
「もつとも、そう頼まれたのは光栄だと思つてるがね。とにかく、前触れもしないでやつて来てよかつたかどうか……」
 そう言つて奥に眼をやる南条己未男の視線から、小萩はもうとつくに姿を消していた。
「兄さん、今の女の方、どなた? あたし、見たことあるようなひとだわ」
 と、真喜が、やはり、奥の方をみながら、言つた。
「それやそうだろう。お前の知つてるひとだよ」
「小萩さんでしよう、そんなら……」
「その通り……今、病気なんだ。よくわかつたな」
「へえ、そうか、かつての小萩さんか、あれが……。すつかり変つたじやないか」
 どちらも、その昔、会つたことがあるだけに、詳しい説明はいらなかつた。
 小萩に合わせたものかどうか、一応彼女の意向をたしかめるつもりで、京野等志は、部屋にはいつた。
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323Ryou Firefox
2014/05/10 22:42
「だから、ハギのいうとおりになさればよかつたのよ。でも、大丈夫よ、少し伸びて来ればわかるわ。これでも、草花は多少、自信があるのよ」
「あゝ、その方はハギに委せるよ。僕は、専ら生産的な方面を受持つことにする。但し、野菜なんか、あらまし買つたつて間に合うんだからね。そんなに一生懸命にやる必要ないよ」
「まず予防線を張つておいて……。そうよ、お百姓は無理よ。青いものが少し取れゝば、畑はそれでいゝわ」
 そう言いながら、小萩の表情は急に引きしまり、眼で彼に合図をしたので、彼は、表の方をふり返つた。
「どうもこの家らしいと思つた」
 南条己未男が、片手を挙げながら、崖の階段を登つて来た。そして、すぐうしろに、妹の真喜が、ちよつと照れたような笑顔をまともにこつちへ向けて、ついて来るのである。
「差支えないかい?」
 と、南条己未男は、ちよつと小萩の方に会釈をした後、彼のそばに寄つて、たずねた。
「ふむ、これは意外だ。もちろん差支えないが、真喜が一緒というのは、どういうんだい? まさか、もう結婚したんじやあるまいな」
 京野等志は、実際、そうとでも言うより、挨拶のしようがなかつた。
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322Ryou Firefox
2014/05/10 22:40
検索結果の順位には被リンクの有無や質が重要 "私は日々の生活に於いて、気になったり、分からなかったりする単語があるとすぐインターネット上の検索エンジンを使って調べ物をしますが、基本的に一番上に表示されてくるウェブサイトが情報の質が良い事が多いので、そちらから調べていきます。 その様に何気なく利用している検索エンジンですが、ふと気になったのが検索結果に並ぶ順番はどうやって決めているのかについてです。 皆がこぞって利用する様なウェブサイトが検索結果の上位にくるのは分かりますが、詳しい仕組み等は分からないままです。 私が実際に使っていて感じたのが、検索結果の次のページに行けば行くほどそのサイトをお訪れる可能性も低くなっていきますから、検索結果の上位に来ることはとにかく自分のページに人を集めたい人にとっては大事だろうなと思いました。 断定はできませんが一説によると内容のあるサイトからの被リンクの数も検索結果の順位に影響を与えるそうなので、そういった繋がりを持っておくことはインターネットの世界に於いても大事だなと思いました。 被リンク

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321Ryou Firefox
2014/04/11 19:37
 私は、たまに――それこそ、ほんとに、百度に一度ぐらゐである――約束の時間に遅れることはあつても、断じて、その時間にきつちりその場所へ行き着いた例しはない。いつでも三十分か、時によると一時間早目に行き着くのである。さう心掛けてゐるわけではないが、さうせずにはゐられないのである。少し遅れて行くあの優越感に似た気持、わきから見るあの「ほどのよさ」を知らない訳ではないが、どうも、困つたもので、いつも早く行きすぎる。それが、恋人とのランデ・ヴウででもあるなら、まだ訳がわからないこともないが、旅行をする時の汽車の時間がさうである。芝居を見に行く時の開幕時間がさうである。晩餐に招かれた時がさうである。悲しいことには、借りた金を返しに行く時――もちろん、返し得る場合に限る――までが、さうなのである。
 なんで、自分の時計など、あてにするものか!

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320Ryou Firefox
2014/04/11 19:37
 これからも、恐らく、時計を買ふことはないだらう。いま時計など持つて歩くと、始終捲くのを忘れたり、それならいいが、自分で時計を持つてゐるのをすら忘れて、やつぱり、人に「いま何時?」などと訊くに違ひない。さういふ場合、後から気がついて、またへまなことを、例へば、「どうもこの時計は遅れていかん」なんて、云ひ出すかもわからないではないか。
 それに第一、自分の時計が、それほど信用できるかどうか。ドンが鳴ると、一斉に時計を出して見て、一人が、「おや、今日のドンは三十秒早い」なんていふのは、まだ愛嬌にもなるが、「君の時計合つてる?」と訊かれ、即座に「合つてる」と答へる男は、そんなに頼もしくないやうな気もするのである。まして、「いま何時」――「今かい、今はね」と考へて、「零時…二十三分…十秒」などの気障さ加減に至つては鼻持ちがならぬ。
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319Ryou Firefox
2014/04/11 19:36
 家主のお神さん、T夫人が、その後、私を彼女の物置に案内して、古い額などを見せた時、「こんなものが……」と云つて、埃の中からつまみ上げたのが、今、私の所有に属してゐる鉄側で、夫人のお父さんが、そのまたお父さんから譲り受けた品物であるといふだけでも、明かにロマンチック時代のあの懐しい面影を伝へてゐることがわからう。
 この鉄側は、しばらく、一本の短針だけで、大体の時間を知らせてゐたが、今は、それすら動かなくなつてしまつた。末弟が時計屋に持つて行つたら、大変珍しがるので、そんなに値打がある代物かと思つて、値ぶみをさせてみたら、笑ひながら、値段のつかないほど珍しいものだと云つたさうである。只なら欲しいといふ意味だらう。

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318Ryou Firefox
2014/04/11 19:36
 それでも、生れてから時計を一度も持つたことがないわけではない。十三にして、おやぢからニッケル側を貰ひ、二十三にして、自分の金で銀側を買つた。それ以来、その銀側を持ち続けてゐた筈だが、いつ、どこで、どうしたのか――ああ、さうさう、これを忘れてゐる法はない。巴里の、ある裏通りの、安下宿の二階で、ある日、病気で寝てゐると、そこへ、瓦斯屋に化けた強盗が、悠々とはいつて来て、いきなり、何か、石ころを袋に填めたやうなもので、熱のあるこの頭を、ガンと擲りつけ、痛いなあと思つてゐるところを、「金、金」と云ひながら、その辺を捜しまはし、化粧台の上にのせてあつた、例の銀時計を剃刀と一緒に持つて行つてしまつたのである。

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317Ryou Firefox
2014/04/11 19:36
 私は、今、時計といふものを持つて歩かない。時間を超越するほど結構な生活をしてゐる訳ではないが、時計を持つてゐなくつても、どうやら用事は足りるのである。そのかはりどこへ行つても、時間を知りたい時には、時計を持つてゐさうな人に、「いま何時?」と問ひかける。時間をきめて人を訪ねる時など、その家の近所へ辿りつくと、軒並みに薄暗い店のなかへ、それとなく素早い視線を投げて、柱時計のありかを一瞬間に突き止める修練は、いつの間にか積んだ。かういふ時、便利なやうで不便なのは時計屋の店である。なんとまぎらはしき針また針の方向!

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316Ryou Firefox
2014/04/11 19:36
 作品を批評して作家の人物評に及ぶことは必ずしも「ヘン」ではない。人物評のし方によると「ヘン」になるのである。
「作品は面白いが作者の人物がどうも頼りない」といふくらゐなことは、僕の趣味には合はないけれど、まあそれほど咎め立てをしなくてもいゝだらう。それよりも或る批評家が或る作家の作品を褒めたのに対して「かういふ作品に感心するのは幼稚な気がする」といふやうな言葉は、一刀の下に両者を重ね斬りにした手並は鮮かではあるが、苟も、喧嘩をする気でなければ迂闊に口には出せない文句である。批評をすることは喧嘩をすることではないのだから、これなどは、僕に言はせると、ちと「ヘン」なのである。
 どんな暴言を吐いた後でも、平気でその対手と談笑ができるならそれこそ、全く以て不思議な現象である。わが大日本帝国の文壇は正に三河万歳と選ぶところはない。

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