分からぬは夏の日和と人心
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2014/01/08 15:41
 だが、この越後の獅子と甲州の龍は、中央の舞台を外に、十年も対峙してゐる。川中島合戦は、戦史を飾る激戦ではあつたが、政治的には、何ほどの意義もなかつた。後年秀吉が、「ハカの行かぬ戦争をしたものだ」と評した所以である。
 甲越の決戦を観望して、「傍毒龍有り、其※を待つ」の感があつた北條氏康は、元亀二年に歿し、こゝに均衡勢力の一端は破れた。翌三年十月、武田信玄は大挙して上洛を志し遠江に侵入し、徳川家康を脅かしたが、翌天正元年四月、疾を得て「明日旗を瀬多に立てよ」のうは言も悲しく陣歿した。
 入洛競争のテープを切つたのは信長だつたが、甲斐の龍、信玄の鋭鋒を邀へては、あまり勝味のない桶狭間を、も一度繰り返さねばならない破目になつてゐた信長は救はれたわけだ。

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2014/01/08 15:41
 戦国の群雄が素懐とした上洛の理想は、尾張に崛起した織田信長によつて遂げられたが、かうして、一躍新武家時代の寵児となつた信長は、上洛の栄誉を獲ると同時に、天下諸大名の嫉視の的となつたのである。
 されば、以後の数年間が、彼としては一生の危期であつた。
 甲斐の武田信玄、越後の上杉謙信、相模の北條氏康、その何れの勢力が西方に延びて来ても、信長の覇業は忽ち遮断されたに違ひない。
 周到な信玄、慓悍な謙信、勇敢にしてしかも緻密な計画性をもつた氏康、この三人が用ゐた印章は、それ/″\龍、獅子、虎であるのも興味深いが、まさに彼等は、当時日本の龍であり、獅子であり、虎であつた。しかも、この三人が互に優劣なく固執し、相牽制して均衡の勢力を保ちながら、空しく年月を費してゐたことが、信長に幸したのである。
 謙信と信玄とは、軍の編成と統率、団体戦法と用兵に於て、戦国時代の群雄をはるかに凌駕してゐて、我が国に於ける戦術の開祖とも云ふべきである。後世、由比正雪が楠木流の軍学などと称したものも、武田の兵法を太平記に結びつけたものである。

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2014/01/08 15:39
意外と多いFXトレーダー
最近になって分ったのですが、自分の周りで意外なほど多くの人がFXの取引をやっているのです。会社の同僚もやっていますし、近所の居酒屋のマスターもやっていました。何より驚いたのは会社の学生アルバイトの子も熱心にやっていた事でした。
FXは少ない手持ち資金でも取引を始められるというのは知っていました。ですが、どこまで儲かるのかはよく分っていませんでした。しかし、これほど多くの人がトレーダーになっているのですから、比較的に安定した利益を出せているのかも知れないですね。
そういう訳で私もFXを始めてみようかと思っています。すでに証券会社選びに入りました。まずは最近減った小遣いの分を取り戻す事を目標に頑張ろうと思っています。
MT4 EA

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2014/01/06 17:18
「グレープ・ジュース、氷沢山入れてね。」と、ボーイに命じて、後は前川の張りついたような顔に、愛らしく笑いかけて、
「貴君の奥さんと、やり合ったんで、喉が乾いちゃったの。……でも、不愉快だわ。」
「貴女が、やり合ったんですか。」前川は、気の毒なほど、蒼くなっていた。
「そうだわ。だって、新子姉さんは、何にも云わないんだもの。だから、マダム、俄然威張っちゃって、お姉さんを泣かしてしまったんだから……」
「お店で、ですか。」
「お店で、始まりそうだったから、二階へ上げちゃったの……」
「二階でね。」前川は、秘密の核心を衝かれたように、憂鬱な顔になって、
「しかし、こんなに早くどうしてあの店が分ったんでしょう。」
「圭子姉さん、ご存じ?」
「知っています。」
「あれが、マダムに籠絡されているんだから、世話はないの。私が圭子姉さんに頼まれて、だらしなく案内してしまったの。」
「圭子姉さんか、ウッカリしていた……」
 物事の径路がハッキリして来ると、今までは半信半疑であった事件が、マザマザと考えられて来、妻の露骨な仕打ちが、わが事のように羞らわれて来た。
「奥さんも、随分思い切ったことなさるわねえ。たとい、お姉さんを疑っていらしっても、いきなりここへ来て、直接行動を取るなんて、ひどいわねえ。」
「ひどい――とんでもないことをする。」前川は、憮然としている。
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2014/01/06 17:18
「あら、取り込みなんて、よし子がいったの? 取り込みなんかじゃないわよ。ただ、前川さんが、会いたくない人が来ていたのよ。」
「じゃ、昔お姉さんの恋人であった人で、今度貴女と結婚するという人?」
 美和子は、ちょっと憤った顔をして、
「自分のお蔵に、火がついたのも知らずに、何を云ってんの。私達の恋人じゃないわよ。貴君の恋人よ!」
「嘘、おっしゃい!」
「嘘なもんですか。前川夫人が乗り込んで来たのよ。」
「僕の女房? ウソでしょう。」
「そらそら、すぐ色を失うくせに、……嘘なもんですか。」
「綾子が……どうして……」前川は、きれぎれに呟いた。
「どうしてだか、お家へ帰って奥さんに訊くといいわ。」
「綾子が、あの家を知ってるわけはないんですよ。冗談にも、そんなことを云うものじゃありませんよ。」
「そんなに、興奮しないで、落着いて、落着いて! とにかく、私がどうにか帰したんだから。」
「本当ですか。」
「本当よ。」癪にさわるほど、美和子は落着き払っていた。
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2014/01/06 17:17
(今取り込みがありますのよ。資生堂で、しばらくお待ちになっていて下さいませんか、とおっしゃっていましたわ)と、よし子にいわれて、しかも奥を気にするその態度に、そわそわした不安が感ぜられたので前川は、(あ。よし!)と、軽くうなずいて引き返すと、指定されたとおり、一町とはない資生堂まで歩いて、空いたボックスを探して、腰をおろすとアイスクリームを註文した。
 取り込みって、何だろう。姉妹喧嘩でも、始めたのであろうか。それとも、姉から妹に移ったという若い音楽家でも、飛び込んで来て、事件でも起したのであろうか、などと今までに例のないことだけに、狐につままれたような感じのなかにも、新子の身を案ずる不安が漂っていた。
 だが、十五分とも、待たないうちに、待っていた姉の代りに、美和子が入口に現われ、わざと入口から見えるような位置に腰かけている前川を見つけると、思いの外に元気のいい笑顔で、近づいて来た。
「やア。」と、笑顔で迎えれば、
「のん気な、顔をしてんのね。」と、きめつけられて、
「おや、あべこべじゃないですか。そちらこそ、取り込みがあったというのに、のん気な顔をしているじゃありませんか。」

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2014/01/06 17:17
 もし、またそれを続けるとしたならば、今以上に、太陽の当らぬ日蔭の地を選ばねばならないし、またどこに隠れていようとも、ゲー・ペー・ウーのように鋭い夫人の眼を怖れて、常に恟々としていることは、新子の堪え得るところではなかった。
 今こそ、前川の周囲から、身を引いて、明るいところへ、新しい生活を築き直すべき機会であると思った。
 新子が、ふかくうなだれて物を思っていると、女給のよし子が、不安な表情で上って来て、小声で、
「先刻、前川さんがお見えになりましたので、美和子さんのおっしゃったとおり、資生堂で待っていて頂くように、申上げておきました。」と、いった。
「あら、そう、どのくらい前。」
「たった今でございます。」
「お姉さま行く?」と、美和子は姉を見た。一歩、店を出ると、すぐ前川夫人につかまりそうな気がして、新子は会いに行く、勇気が出なかった。
「じゃ、私、行って来るわ。とにかく、事件を報告してくるわ。あの人にも少しいってやるの。」と、新子が、止める隙もなく、美和子は一散に店を飛び出して行った。

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2014/01/06 17:17
「美和チャン、貴女……」
「シッ、静かに。」と、姉の言葉を押えて、階段口から階下の情勢を窺ったが、動き出した自動車のエンジンの音を聞くと、
「帰っちゃった!」と、舌を出した。
「だって、貴女、ほんとにひどいこと云うんだもの。」
「ひどいって、どちらが……。あれは、一体何をして生きている人種ですか。苦労知らずの奥様で、お金があって、暇があって、旦那様をお尻に敷いて威張っている上に、ちょっと貧しい同性は、目の敵にして、こっちの困ることなんか、おかまいなしに、すぐ出て行けだなんて……人を馬鹿にしているじゃないの、もっと苛めてやればよかった。あたし、あんなのと喧嘩するの大好きだわ。」
 美和子が、おどけた口調でいうので、場合を忘れて、新子もちょっとほがらかになりながら、
「だって、貴女だって、あの奥様の立場になれば、きっとああだわ。」
「モチ、あたしだったら、もっと凄くなっちゃう。」と、艶やかな笑顔をしてみせた。
 妹の思いがけない奮闘で、急場の難儀を逃れたことを、嬉しく思うものの、しかし新子の心境はみだれていた。
 前川が、夫人に対する態度をよく知っており、それを改めることが、前川にとって不可能であると思われるだけに、夫人にすべてが知られてしまった現在では、前川と自分との交際も、これが最後であると考えねばならなかった。

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2014/01/06 17:17
「あら、奥さまは、そんな権利をお持ちにならないはずだわ。」
「おや、どうして……良人のものは、私のものですわ。」
「だって、このお店、前川さんのものじゃないわ。」
「じゃ誰のものです。」夫人は嘲りながら云った。
「みんな新子姉さんのものよ。」
「美和チャン!」新子は、思わず美和子を押えようとした。
「お姉さんなぞ、だまっていらっしゃい!」と、云ってまた夫人に向い、「ここのものは、みんなお姉さんのものだわ。」
 夫人は口惜しそうに、ジッと美和子を睨みつめながら、
「だって、みんな前川が買ったものじゃありませんか。」
「お金は、誰から出ているか、私知らないわ。しかし、今では、みんなお姉さんのものだわ。だって、お店の名義は、お姉さんの名前ですもの、そりゃ、みんな前川さんから貰ったものかもしれないわ。でも、貰い物は貰った人のものよ。」
「まあ! 図々しい!」
「図々しいよりも、こんなこと云い合うの、下品だわ。あさましいわ。だから、お姉さんは、だまっていらっしゃるのよ。奥さまが、愚図愚図と云えばだまって出て行くつもりよ。だからお姉さんの方が、奥さまや、私よりも人間が上よ、一言も云わないんだもの。」
「ヒドイ!」
 夫人は怒りにかすれた喉声でそう云うと、いきなり立ち上った。立ち上って、扉を押すと、よこっ飛びに階段へ出た。

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2014/01/06 17:17
 美和子は、また奮然として、
「お姉さんだって恐れ入っているもんですか。お姉さんは、あんまり良心がありすぎるから、たった一月お世話になったことを考えて、遠慮しているだけよ。こんなに慎みぶかいお姉さまを危険視するなんて、大間違いだわ。お姉さんを、警戒する前に、奥さまは、手近な前川さんの心臓を、しっかりお握りになっているといいんだわ。」
 これは、美和子の揮う論理の中でも、相当夫人にとっては、痛いものであるだけに、夫人はますます苛々して、表情らしい表情を無くして了い、
「下らない理窟なんか聞きたくないわ。ともかく今夜かぎり、貴女方姉妹は、この店に出入を止して頂きたいわ。ねえ、新子さん、それに異議はないでしょう、貴女は先刻承諾したはずですもの。」と、敢然として高圧的な態度に出た。
「どんな理由で、止さなければならないんですか。」と、美和子は落着き払って訊いた。
「どんな理由? 私が厭なんです。前川がこんな酒場なぞを出すことに、反対するのです。この店が無くなる以上、貴女がここに止まるわけはないじゃありませんか。」夫人は、ようよう冷然たる態度を取り戻して来た。

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